「息を潜めて行動しろ。深海魚のように」田中被告の携帯にメモも…検察が描いた“3つの柱”はなぜ崩れたのか 王将社長射殺事件・無罪判決の裁判詳報

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現場に残された「2本の吸い殻」

 1つめの柱は、現場の吸い殻。なぜ、吸い殻なのか。DNA型が一致しても分かるのは、被告が「いつか」「どこか」で吸ったことだけ。検察は「あの朝」「あの場所」で吸ったことまで示そうとした。

 カギは2つ。「前日の朝には落ちていなかったこと」「その場で吸って消した形をしていること」。この2つがそろえば、田中被告は事件の朝、待ち伏せの場所にいたことになる。吸い殻2本は事件当日の午前9時ごろ、通路の中央付近で見つかった。路面は朝からの雨で濡れていたが、劣化は見られなかった。

 検察は、吸い殻の形に注目した。「もう1本は、フィルターの約10mm手前まで、巻紙と葉が残ったまま消え、その形状は吸煙直後に濡れた路面にたたきつけて、消火したたばこの形状と酷似していた」「本件DNA型が被告人のDNA型と完全一致することが判明した」。

 そして、もう1つのカギ。「本件前日である同月18日午前8時25分頃に、王将従業員が出勤して通行した際には、同所に本件吸い殻2本は落ちていなかった」。公判では吸い殻を見つけた警察官らが証言台に立った。「吸い殻は新しいものだと思った」(警察官)。

 かつて王将に勤め、あの通路を通って通勤していた女性は「(前日にたばこが)落ちていたら気付いたと思う」と振り返る。

 弁護側は、こう尋ねた。「たばこは火がついていると白い灰が出てくる。吸い殻の周りに灰はあったか」。灰があったと答えた証人はいなかった。弁護側はこの“科学的な立証”にこそ、疑いの目を向けていた。「いわゆるジャンクサイエンスも冤罪の原因である」。

 判決はまず、吸い殻は被告が吸ったものだと認めた。「吸い殻2点は被告人が喫煙した後のものと認定できる」(裁判長)。

 そして、検察の“2つのカギ”を1つずつ退けていく。「前日の朝はなかった」この点については「犯行後の実況見分に参加した一部の警察官も、落ちていた吸い殻に全く気付かなかった。犯行前日の朝よりも前の時点から、吸い殻が東側通路に遺留されていた可能性を否定できない」とした。

 「現場で吸って消した」この点については、吸い殻はポリ袋と紙封筒に入れて、科捜研に運ばれたが、形は崩れていなかった。「何らかの容器に入れてある程度安定した状態を保っていれば、別の場所から東側通路まで、発見時と同じ状態で運べたと考えられる」。

 一方で判決は、吸い殻が見つかったことの重みをこう認めた。「犯行直後に東側通路で被告人の喫煙後の吸い殻が発見されたことは、被告人が実行犯であることを相当程度推認させる」。

 それでも裁判長は、被告はヘビースモーカーで吸い殻をその場に捨てていた、周りの人間なら手に入れるのはたやすいと指摘し、被告の周りにその吸い殻を手に入れることができ、被告を罪に陥れることもいとわない人物が全くいなかったとは断定できないとした。

 「被告人が実行犯と認定し得るほど、強い推認力を有するとまではいえない」。DNA型は一致した。それでも、吸い殻だけでは実行犯とは言えない。

カブのハンドルに残された“射撃残渣”
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