クールな表情で対局を進める印象が強い将棋のプロ棋士だが、内に秘める思いは想像以上に熱い。特に「負けました」と相手に告げる瞬間は、大ベテランの棋士になっても気持ちの整理がつくまで、長時間を要することもあるほどだ。そんな負けず嫌いがそろった棋士たちの幼少期は、ダイレクトに悔しさを表現することも多いという。中学生棋士として29連勝の大記録を樹立した藤井聡太四段(15)も、“光速の寄せ”の異名を持つ谷川浩司九段(55)も、それぞれエピソードを持っていた。
対局後のインタビューでは、中学生ながらしっかりとした受け答えと、その落ち着きぶりが注目される藤井四段だが、幼少期のころはとにかく泣いて悔しがった。通っていた地元の将棋道場の指導棋士・文本力雄さんは、AbemaTV(アベマTV)の将棋番組内で「四肢をバタバタさせて泣いていた」と当時を振り返った。時には将棋盤を抱えこんだこともあるという。家庭内でもゲームに負けたとなれば、泣きながら勝つまで勝負を挑んだという逸話もある。とことん悔しがった結果が、その後の飛躍的な成長につながっている。
悔しさから駒を噛んだとして有名なのが、史上最年少の21歳で名人となり、日本将棋連盟の会長も務めた谷川九段だ。兄との将棋で敗れると、駒を噛んで悔しがった。噛み方も半端ではない。歯の跡がつくほど強く噛み、しかも1つ2つどころではなく1組の駒に無数の跡が残っていた。後に藤井四段と同じく中学生でプロ棋士になった谷川九段にも、そんな幼少期があったわけだ。
悔しさは成長する上での糧になる。プロ棋士になるレベルであれば、幼少期から大人を負かすほどの棋力はあったと思われるが、そんな“天才少年”たちも負けを繰り返してプロになった。棋士たちが対局後に口にする「勉強させていただきました」という言葉・姿勢こそが、悔しさを成長につなげるための鍵なのかもしれない。
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