凛とした空気をまとう棋士である。郷田真隆九段(46)には、代名詞となっている二文字熟語がいくつも存在する。
「剛直」。居飛車党本格派で直線的な棋風は「剛直流」と称されている。名字の「ごう」の響きとも相まってファンの間に定着している。美しいスタイルは「まるで教科書のような」と語られることもあるくらいだ。
「長考」。妥協するような手を選ぶことを嫌い、序盤でも長考を厭わない。持ち時間が6時間と最も長い順位戦では、一手の考慮で2時間を超えることもある。ただ、日本シリーズ3連覇(1993~95年度)、NHK杯戦優勝(2013年度)など早指し棋戦でも実力を発揮する。
「格調」。将棋界では「格調高い」という表現が好まれ、盤上のみならずあらゆる場面で用いられるが、最も使われるのは郷田が指す一手に対する時だろう。コンピュータ将棋ソフトの進化で、ひと言で言えば「何でもあり状態」と化した現代将棋の中、将棋の本質を直視した最善手を指し続ける郷田のスタイルには、ファンはおろかプロからも尊敬の視線が注がれている。
20代前半の頃から現在に至るまで活躍を続ける、いわゆる「羽生世代」の一角を成す棋士である。同学年の羽生善治棋聖、森内俊之九段らと同期で奨励会に入会。四段(棋士)昇段は19歳と羽生(15歳)、森内(16歳)からは遅れを取るが、プロになってからはすぐに活躍を始める。
21歳で迎えた1992年度の王位戦で谷川浩司王位(当時)に挑戦し、初タイトルを獲得。棋士の最低段である四段でのタイトル獲得は史上初のケースだった。
現在の規定では、四段の棋士はタイトル初挑戦が決まった時点で五段に昇段するルールに変更されているため、仮に藤井聡太四段が史上最年少タイトルを獲得するとしても「藤井五段が~を獲得」ということになる。郷田の記録は永久に不滅となる可能性もあるのだ。
タイトル獲得6期の大棋士だが、隠れた大記録と言えるのが将棋大賞の殊勲賞を4度、敢闘賞を5度獲得していることかもしれない。若手時代は時の王者を破る殊勲を、ベテランとなった今は一線で活躍を続ける敢闘が称えられてきた実績は、若手棋士にとって見本となる棋歴と言えるだろう。
盤上を離れた場所では、プロレスの大ファンとして知られる。悪性リンパ腫で闘病しているレスラーの垣原賢人さんの支援活動を行い、2015年の王将就位式で募金を呼び掛けたことが話題になった。その後、垣原さんは回復し、今年8月にはリング復帰を果たしている。
プロ野球フリークでもあり、大の巨人ファンだ。数年前、東京ドームのバックネット裏でジャイアンツTシャツを着て応援している様子がテレビ中継に映り込んでいるのをファンに発見され、瞬く間に伝播。「郷田先生がジャイアンツTシャツを着てる!」という幸福な共有が行われた。
四段時代から二枚目(当時まだ「イケメン」なる言葉はなかった)棋士として多くの女性ファンの視線を浴びてきた。ずっと独身だったが、昨年結婚。公私ともに充実し、まだまだ活躍が期待されそうだ。
◆郷田真隆(ごうだ・まさたか)九段 1971年3月17日、東京都出身。大友昇九段門下。棋士番号は195。1982年に奨励会入り。1990年4月1日に四段昇格を果たしプロ入り。タイトル戦に18回出場し、6期獲得。AbemaTV「若手VSトップ棋士 魂の七番勝負」では、第4局(10月21日放送)で青嶋未来五段と対戦する。
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