平成25年名古屋場所に負ったケガで幕下まで番付を下げていた苦労人・栃ノ心が、五月場所で見せた怒涛の快進撃で新大関を手中に収めた。
今年の初場所は14勝1敗で、自身初となる幕内優勝。その勢いをそのままに、続く大阪場所では場所前に左足の付け根を痛めながらも10勝5敗の成績を収め、先日千秋楽を迎えた五月場所では惜しくも優勝を逃したものの、鶴竜と最後まで優勝争いを繰り広げ13勝2敗の成績で終えた。
初場所は前頭三枚目で臨んだため、「三役での直近3場所で33勝」というボーダーだけでは大関昇進は難しいという声もあり、11勝もしくは12勝が大関昇進へのボーダーだと言われていたが、その声を打ち消す13勝。直近3場所で37勝の成績に第52代横綱北の富士勝昭氏も本場所開催中に｢当確と言ってもいいでしょう｣と、勝ち星だけでなく相撲内容にも納得の太鼓判を押した。
栃ノ心のこの快進撃は、平成29年の冬巡業を転機に始まった。平成29年九州場所の後に貴乃花親方が理事解任となり、栃ノ心が所属する春日野部屋の春日野親方が巡業部長を兼任することとなった。春日野部屋は角界随一の猛稽古で知られている。さらに巡業に帯同している親方衆は毎日稽古を見るため土俵下にいることもあり、栃ノ心は巡業中、親方の目の前で連日のように土俵に上がり、猛稽古に明け暮れた。元々稽古嫌いではなかった栃ノ心が、さらなる力をつけ、初場所に初優勝という最高の結果を得たのだ。
三月場所は試練の場所だった。場所前の稽古中に左足の付け根を痛め、いったん帰京。東京にある掛かりつけの病院で痛み止めを注射し、満足のいかない状態で本場所を迎えていた。場所中も痛めた足をかばうように動いていたら血が溜まってしまい、座薬や痛み止めを通常一日一本のところ、二本に増やして土俵に上がった。本人は「仕切りのときに頭がボーッとしてしまい、勝負に集中できないため、途中で痛み止めを使わなくなった」と振り返っている。そんな中、10勝を挙げられたのは、冬巡業での稽古貯金の賜物だろう。三月場所後の春巡業も春日野親方が巡業部長となり、連日若手に胸を出し、自らもぶつかり稽古で肉体を極限まで追い込み、さらに強靭な体を作り上げていった。
「筋肉の鎧」は稽古と食事で作り上げた
料理好きの栃ノ心は自炊をすることがある。五月場所でもマメ、野菜を使った故郷のジョージア料理でタンパク質を摂取し、来日したころは食べられなかった納豆も一度の食事で5パック使用することもあるという。卵黄と大量のネギを混ぜ、ご飯にのせて食べるのも大好きだ。
日本に来て一番驚いた料理は、レバ刺しやユッケだったという。見た目もさることながら、肉を生で食べることに抵抗があったが、一度食べたら美味しかったため今では好物のひとつになった。またレバ刺しに関しては自身の名前でもある『レヴァニ』と似ているため愛着も一入だ。
ジョージアから来日して12年が過ぎ、ケガにも泣いた時期もあった。それでも真面目に稽古に明け暮れ、厳しい環境に順応したからこそ、今がある。そのことは本人が一番わかっているだろう。新米大関となれば今までとは違い、「勝つことが当たり前」という立場になる。追う側から追われる側へ番付を上げ、常に優勝争いに絡んできていることを考えると、さらにもうひとつ上を目指せるところまで実力はついてきている。不屈の精神と鋼の肉体を武器に、大関として闘い続けるには何が必要なのか。まずは大関昇進が確定した伝達式で使者を迎えて行う「口上」に注目し、今後の活躍に期待したい。【相撲情報誌TSUNA編集長 竹内一馬】
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