兄弟子・稀勢の里の引退を胸に…　大関・高安「ふがいない相撲は取れない」悲願の初優勝へ

　「ふがいない相撲は取っていられない」。大関・高安（田子ノ浦）の胸には、そんな強い思いがある。兄弟子である元横綱・稀勢の里（現・荒磯親方）の引退を目の当たりにしたからだ。初場所4日目、引退の知らせは、部屋の関係者から聞いた。「すごく背中を押されましたね。そこから気合を入れて、終盤まで相撲が取れました」。初場所直前にインフルエンザを患い、5日目までに3敗を喫する中で立て直し、最終的には9勝6敗で勝ち越した。

　3月10日から始まる大阪場所を前に取材に応じた高安は、常に神妙な面持ちで答え続けた。兄弟子の引退については「信じられない気持ちでした。（初場所の）場所前も稽古をつけていただいて、すごく体調がよかったし、横綱自身の圧力があったので。まさかこういう結果になるとは思っていなかったです。自分のことのように悔しかったですし、すぐには受け止め切れなかったですね」。大きな存在が土俵を去ったことで、寂しさと同時に責任感が沸いた。「ふがいない相撲は取っていられない気がしました」と力に変え、万全ではないながらも、大関として15日間戦い続けた。

　先輩横綱が32歳で引退する中、29歳の高安も、次の世代から突き上げを食らう年齢になってきた。26歳の御嶽海、22歳の貴景勝には「優勝」という最高の結果で、先を越された。「貴景勝はやはり勢いがありますね。若手の勢いというのはすごく怖いものがありまして。上位の経験や技とか体力とか、それを上回ってしまうことがありますから」。20代前半のころの自分を振り返れば、上位者を1人でも2人でも食ってやろうとがむしゃらに行った。今、立場が変わり、それを正面から受け止める時期になっている。「御嶽海はすごく考えて取るお相撲さん。相手の弱点をしっかり頭に入れて相撲を取るので、僕が見習うところもある」と、年下の力士からも貪欲に学び取る姿勢もある。

　冷静に若手の台頭を受け止めつつ、やはり自分が抱けていない賜杯への思いは強い。「これだけ初優勝のお相撲さんが出てきて、自分はふがいない気持ちで反省ばかり。次はやってやろうという気持ちで、日々精進しています」と語ると、続けて「（自分は）大関ですから、関脇以下の力士が優勝していて、自分にできないわけはない」と、自身を鼓舞した。詰めの甘いところは自覚している。力強い相撲で、すきを見せずに最後まで。そこが徹底できれば、立ち合いでの衝撃はトップクラス。相手を圧倒する力は十分にある。

　2月に行われた日本大相撲トーナメントでは初優勝を飾った。花相撲とはいえ、歴代優勝者には横綱・大関の名前がずらりと並ぶ。2年前の2017年優勝は稀勢の里だ。本場所での初優勝を飾ることこそが、世話になった兄弟子への何よりの恩返しだ。

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