「これは人類が初めて目にしたブラックホールの姿だ」(国立天文台の本間希樹教授)。
10日、東京を含む世界6都市で同時に開かれた記者会見で、国際研究チームがブラックホールの撮影に成功したことを明らかにした。
東京の会場で説明に立った本間教授は「アインシュタインの相対性理論から100年。活動銀河中心核が発見されてから100年。その銀河の真ん中にブラックホールが存在するということを決定づけるものだ。たった1枚だが、非常に大きな意味を持った1枚ということで成果発表させて頂いた。なぜこのような輪、ブラックホールシャドウができるかといえば、ブラックホールは周りの時空を歪ませるため、光が回り込む。また、近傍からは光が出てこない。その効果によって周りに輪っかができ、ほぼ真円の黒い穴として見える。この非常に暗い部分とリングとのコントラストは10対1以上で、間違いなく凹んでいる。このリングの幅は約1000億キロ。さらにガスは電波の観測で60億度という非常に高い温度のプラズマであることがわかった。ここまで加熱し、維持できるのはブラックホールの周辺だけだということで、これも重要な証拠になる。私たちは慎重に解析を進めてきており、従来の方法、米国の方法、日本の方法を独立に用いて、誰がやっても同じ答えが出ることを確認した。一過性のものではなく、安定して存在する」と説明した。
1916年にアインシュタインがブラックホールの存在を予言、1970年代にはホーキング博士が量子宇宙論で「ブラックホールは爆発・消滅する」と提唱。そして2015年にアメリカの研究チームがブラックホールの存在を確認。さらに2017年にEHTプロジェクトがブラックホールを観測。今回はそのデータを元に確認されたものだ。
そもそもブラックホールとは一体どのような存在なのだろうか。宇宙が大好きだというお笑い芸人は「穴だと思われがちだが星、天体だ。でも色々な理論があるので、穴でも間違いではない。重力が強い場所なので、時間が進むのが遅いと言われている」、ブラックホールを研究している筑波大学の大須賀健教授も「穴に近いが構造物ということで広い意味では天体と呼んでいる」と話す。
「ブラックホールの中心には、答えがわからないくらい無限に小さな"特異点"と言われるものがある。ここに大量の物質が集まっているので、とてつもない強い重力を生み出す。元々は星だったがギュッと潰されることによってできると言われている。この特異点が非常に強い重力源なので、光さえも曲がってしまのだが、この重力があると光が曲がるというのがアインシュタインの教えるところで、実は地球上でも重力があるので少しは曲がっているが、ほとんど感じないレベルだ。特異点から離れてれば光は真っ直ぐに進むが、近づくに従って曲がり、最終的には吸い込まれてしまうということだ。この吸い込まれるか脱出できるかという区切りをブラックホールの表面、"事象の地平面"と呼んでいる。宇宙で最高速度を持つ光でさえも脱出できない重力に捕まってしまうということは、当然どんな物質でも捕まってしまい、最終的には特異点に向かって落ちて吸い込まれていく。ただ、物質が事象の地平面を通過すると時間が止まったように見えてしまうということは分かっているが、実際にどうなるかは未だにわかっていない。原理的にはブラックホールの表面にははるか昔の情報が残っていることになるが、重力に引っ張られて見えなくなってしまうので、それが観測できるのかと言われるとちょっと難しい」(大須賀氏)。
また、ブラックホールとセットで語られることもある「ホワイトホール」について大須賀氏は「吸い込まれた物質が最終的にどこに行くのかが分からないという話で、宇宙のどこか別の場所にあるホワイトホールから飛び出してくるとい仮設もある。ただ、ブラックホールらしい天体はたくさん見つかっているが、ホワイトホールらしい天体は一つも見つかっていないので、ちょっと違うのかなと思ったりもする」、おりいは「他の宇宙に繋がっているという説もある」と話した
そして番組放送中、今回の発表の様子をリアルタイムで見ていた大須賀健氏は「ブラックホールの姿、形を初めてみた。美しく見える」と興奮気味に感想を語った。
おとめ座のM87銀河が観測対象になった理由について大須賀氏は「ブラックホールはとにかく小さいというのが特徴なので、リングを見るためには少しでも大きなブラックホールを見なければならない。今回観測したのは、ものすごく遠くにある(5000万光年)ブラックホールだが、巨大なので観測するのに最も良いターゲットの一つだった。もう一つ観測していたのは、これより大きさは1000分の1程度だが、距離が近いので今回の観測装置で同じようにチャレンジできる」と説明。
その上で「理論上の産物として、実在するかどうかが分からない状態がずっと続いていた。存在が確認できたのも最近の話。今回のEHT(イベント・ホライズン・テレスコープ)プロジェクトは、世界各地にある電波望遠鏡で同時に同じ天体を観測することで飛躍的に性能をアップさせるというもの。望遠鏡と望遠鏡が離れていればいるほど性能がアップするので、地球上の各地にある望遠鏡をつなぐことで、仮想的には地球サイズと同じ大きさの性能を発揮できる。ただ、データの解析に手間と時間がかかったのだろう。現時点では理論の予想通りだと理解していいと思う。(赤や黄に写っている部分は)周りにある物質、ガスが出した光がブラックホールの重力によって曲げられたりしながら地球の方に飛んでくる。ただしブラックホールの中からは光が来ないし、裏側にどんなに明るいものがあっても、ブラックホールの中を突っ切って見ることはできないので、真ん中だけがどうしても黒く抜けて見える。地球側に飛んできている光だけをピックアップしているので、このように筒状に見えている。また、ブラックホールの成長プロセスが周囲の星や銀河の進化に多大な影響を与えてきたと考えられているので、今後はその影響の部分が大きな天文学のテーマになってくると思う。次のステップとしては、実際に物質が吸い込まれていく様子を見たい」と話した。
また、おりいも「美しいですね。たぶんアインシュタインが一番見たかったものではないか。EHTは、月に置いてあるゴルフボールを見つけられるくらいの性能。当初は数か月で発表されるのではないかと言われていたが、HDD1024台分データを集め、全てを同じ時間帯に合わせるような処理をしたので、めちゃくちゃ時間がかかっている。もう狙っていたブラックホールは、私たちが属する天の川銀河の中心のブラックホールと言われていた。こちらも解析が終わったら見られるかもしれない」とコメントした。