関西電力の八木誠会長や岩根茂樹社長ら幹部20人が2011年以降7年間にわたって高浜原発のある福井県高浜町の森山栄治元助役から約3億2000万円の金品を受けとっていたことが社内の調査で判明した問題。
27日朝に急遽開かれた会見で「関電側から発注された工事の資金が本社に還流してきたという認識はあったのか」と問われた岩根社長はこれを否定、「(受け取った金品は)返却を申し出たものの、強く拒絶されるなど返却困難な状況があったことから、返却の機会を伺いながら一時的に各個人の管理下で保管していた。儀礼の範囲内のものなど以外はすでに返却を行っている」「我々としては、当該人(森山元助役)との関係が悪化することを恐れ、いったんお預かりして、返せるときに返そうと思って判断を続けてきた」と説明。受け取った資金はすべて元助役側に返却し、所得税の修正申告を済ませたとした。
一方、八木会長はこの会見の前に「個人的なことについては一切お答えをしないということで」とコメント。しかし28日になり、複数のメディアに対し、2011年より前に金品の受領をしていたことを認めている。
ことの発端は、去年1月、金沢国税局が関西電力大飯・高浜原発の関連工事を請け負う町内の設備会社に税務調査を行った際、複数の建設会社から森山元助役に約3億円の資金が流れていたことが確認されたという。そして、森山元助役に流れたこの"原発マネー"が関西電力経営陣ら個人に還流されたと見られているのだ。
今年3月に90歳で亡くなった森山元助役は原発誘致の功労者で、地元では実力者として知られ、助役を退いてからも町内では"天皇"と呼ばれていたとも報じられている。
高浜原発訴訟も担当、映画『日本と原発』では監督も務めた河合弘之弁護士は「原発の安全対策工事は数百億円の大盤振る舞いだし、地元を儲けさせないと納得してもらえないので、金額査定も非常に甘い。そうやって水増しした超過利益が元助役のところに行き、自分だけでもらってはまずいし、今後きちんと押さえておく必要があると考えた元助役が八木会長やその他に渡したというのが実態だと考えられる。今回は建設会社に税務調査があり、さらに元助役が亡くなったことで相続税の調査も行われ、そこからお金が元助役に流れていることや、さらに関電の役員、個人に流れていたことがわかったんだと思う。それがなければ自分たちのものだと思って未だお金を持っていたのではないか。また、お金をもらっていた7年間がどういう時期かといえば、"すみません。原発が止まったので"と言って電気料金を値上げした時期。関西の人たちはブーブー言いながらも関西電力に料金を払ったはずだ。消費者をバカにしている。税務調査がなかったら、あんたら今でもネコババしていたろうと言いたい。いつ、いくら、どうやって受け取って、返したと言うなら、いつ、いくらどうやって返したのかということを情報開示すべきだ」と憤る。
その上で河合弁護士は「会社法の967条に、取締役等の贈収賄罪というのがある。その要件は取締役等がその職務に対し不正の依頼を受けて財産上の利益を収受した場合だ。今回の場合、これにあたるのではないかと思う」との見方を示した。
また、弁護士の郷原信郎氏は「関電は法的な問題として説明し、逃げようとしているが、問題の本質はそうではない」と指摘。「2011年の東日本大震災に伴う原発事故が起きる前は、言ってみれば安全神話が定着していたので、国策に沿って原発を動かしていくことについても皆が信頼していただから力会社も地元にお金をばらまくとか、やらせメールとか、何をやっても許されていた。しかし2011年を境に、電力会社は透明性を向上させ、世の中の理解や信頼を得ないといけなくなった。私は電力会社が変わったと期待していたし、元々電力会社の経営トップはモラルの高い人たちだとも思っていた。ところが信じられない事実が出てきた。しかも、それについて"不適切だが違法ではない"と言っているし、"第三者を含む委員会で調査した"というが、重要なことは何一つ説明しない。彼らは透明性ということを忘れたのか。"相手方との関係を損ねるから返せなかった"というのも、原発事故前の電力会社が市民あるいは地域の社会の人たちに目を向けるのではなく、地元の有力者のご機嫌を伺い、特定のボスの力で原発を建設し、動かすというやり方と同じだ。それこそがあの重大な事故を招いた。それなのに、"その関係をもっと続けたかった。有力者との関係を損ねたくなかった"と言っている。しかも会長に至っては、"国税は預かっても所得だと言っているから、仕方なく修正した"とまで言っている。そんなバカなことがあるか。そんな詭弁まで弄して、自分たちは悪くないと言っている」と厳しく批判。
「これまで色んな不祥事やコンプライアンス問題に関わってきたが、社会に対して重大な責任を負っている企業のトップの人たちがこういうことをするというのは、私の中で企業というものに対する見方、常識が崩れてしまう。ここまで来ると、あらゆる法令を使って刑事罰を科すことを検討するしかないと思う。大阪地検特捜部は寝ている場合ではない。あらゆる手段を使って捜査すべき、そのぐらいひどい問題だ。ただ、会社法の967条はこれまで適用された例がなく、死文化していると言われている普通、不正の依頼を受けてお金をもらった場合は特別背任罪が成立するが、この場合は会社にとっては原発を稼働させてもらえるから、プラスになる面があったかもしれない。ただ、そういう不透明なお金の流し方というのは、いくらルールに違反していなくても不正だ」。
元経産官僚の宇佐美典也氏は「郷原さんが言ったことに加えて、関西電力には"被害者意識"があったと思う。なぜかといえば、原発事故を起こしたのはBWRというタイプの原発だが、関西電力の高浜原発などはPWRというタイプ。それなのに追加工事が必要になったということに対しての、被害者意識があるということだ。また、元助役の中には、自分だけがお金をもらっていると、いつか刺されるという危機感があったと思う。"共犯"をたくさん作り、誰も言えない構造を作っておかないと、自分の権力が危ういと。ここからは推測だが、それ以前にも相当やっていると思う」と指摘。平石直之アナウンサーも「確かに東京電力意外の電力会社を取材していると、"とばっちり"だと感じている雰囲気を感じる。特に関西電力は電力の半分以上を原発が占めていたので、再稼働させることがとても大事なことだったと思う」と話す。
また、今後について宇佐美氏は「今は適正なコストを考えた電気料金として経産省が認可する仕組みがあるが、これを自由化することで、国民を裏切っていたとしても"民間の話"になってしまう。やはり原発に関しては、国が監視し、物言えるような仕組みを作らなければいけないのではないか」と示唆した。
現在、1号機と2号機の再稼働を目指す高浜原発。東電の会見を受け、菅官房長官は「まずは、経産省において関電から詳細な事情聴取や他に類似な事例がないかなど、徹底した調査を行って、その上で対応を検討する。原子力事業を行う事業者は地元や国民からの信頼が何よりも不可欠であると考える。今回のような事態は大変問題だと承知している」と発言。一方の関西電力側は会長、社長を含めた社内処分も行ったとしたが、辞任の意向はないとしている。また、どういった名目で幹部に金品が渡ったのか、そして、どれだけ返却したのかなどは一切明らかにされておらず、疑惑は深まるばかりだ。
河合弁護士は「"弁護士に頼んで調査してもらった"と言っているが、顧問弁護士か、関西電力の言いなりの弁護士だろう。だから絶対に経営者の言いなりにならない、金に転ばない公認会計士や弁護士入れた厳正な第三者委員会でやらないと何も分からない。例えば郷原さんみたいな人を選ぶべきだ(笑)。そして、全容が分かった後は八木さんと岩根さんは辞任しないといけない。日産のように、散々粘ったが辞めさせられた。それと同じことが起きると思う。加えて、電力会社は横並び意識が強いので、原発を抱えている他の電力会社でも同じことが十分あり得る。原子力規制委員会や経産省が調査を水平展開すべきだと思う」と主張。
河合弁護士の"指名"を受けた郷原弁護士は苦笑しながら「調査に当たった弁護士の名前が出ていない。第三者を入れたのだったら、表に出てきて"私がちゃんとやった"と言えばいい」とコメント。「九州電力のやらせメール問題で第三者委員会の委員長として徹底的にやった結果、最後は九電の会長、社長と大変なことになった(笑)。ただ、あの時に我々が指摘したのはやらせメール問題の"本質"だった。繰り返しになるが、原発事故前の環境と、その後の環境は激変したのだから、電力会社はそれに適応しないといけないということだ。それができなかったから、やらせメールなどという問題を起こしてしまった。ところが九州電力は反省しようとしなかった。地域との関係や信頼を得ていくことに対して、本当に向き合おうとしなかった。おそらくそれは関西電力も同じだろう。だからPWRとBWRの違いというのも詭弁で、言い訳でしかない」と断じた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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