「閉じ込められて、外に出られず、外の様子もわからず、知らない大人に早く寝ろ、早く起きろと叱られ、自分の物ではない服を着て過ごし、頭がおかしくなりそう」
「刑務所みたいで、感情をなくし、脱走してしまいたくなる。なぜ子どもだけが自由を奪われるのか」
次々と並ぶ、悲痛な叫び。これは、虐待などを受けた子どもたちを一時的に保護する東京都の「一時保護所」の実態について、第三者委員会がまとめた意見書に記された子どもたちの訴えだ。そこには、保護されるはずの場所で受けた“心の傷”がつづられている。
一時保護所は児童相談所が運営する施設で、親から虐待などを受けた子どもたちをまず受け入れ、原則2カ月まで保護している。その間に児童相談所が親の調査などを行い、子どもを家族の元に戻すのか、児童養護施設などに預けるのかを決定する。いわば、子どもたちを守る最初の砦だ。
しかし、意見書ではすべての一時保護所ではないとしながらも「私語を一般的に禁じていたり、子ども同士が目を合わせることを禁じところまである」「1人壁に向かって食事をする風景は、罰を受けているかのように見える」と“過剰な規制”を問題視している。ある一時保護所では、ルールを守れなかった子どもに対し「グラウンドを何周もさせる」など、行き過ぎた罰則を与えていることも明らかになった。
なぜ、一時保護所で過剰な管理ルールが横行しているのか。かつて一時保護所に勤務していた日本社会事業大学専門職大学院の宮島清教授は、問題の根底に“職員不足”があると指摘する。
「例えば20人(の子ども)をみているということになれば、どういう子どもたちか分からなかったりする。子ども同士がトラブルを起こして、無秩序な状況が生じることが一番怖い。職員の中では子どもたちの全体を守りたいという気持ちがあると思う。そうするとトラブルが起きないようにと新たなルールを作り、増えていく。それがどんどん厳しいルールになって、常識から離れているようなものがまかり通るようになる」
この背景の1つにあるのが、定員超過状態となっている入所率の高さだ。都内7カ所にある一時保護所の2016年度の入所率は、義務教育期間中の男の子が150.6%、女の子が138.4%と定員を大幅に超えている。
「そのしわ寄せは、実際に保護された子どもたちにいくと今度の報告書(意見書)が言っているし、それを担う職員の多くにもいっていると思う。いつも安心して保護できる環境を子どもたちに用意しなければいけない。」(宮島教授)
全国で2016年に一時保護された子どもは約4万人で、このうち虐待を理由に保護された子どもは約2万人。意見書では、東京都のすべての一時保護所ではないものの、行き過ぎた厳しいルールで子どもを縛り付ける問題の根底に、職員不足と定員超過状態があると指摘している。
■一時保護された姉妹の“里親”に「制度が広まってほしい」
この一時保護所の定員超過問題を解決できるかもしれない制度が、「里親制度」だ。
現在、厚生労働省も推進する里親制度。児童相談所の職員による家庭訪問調査や研修などを受け、里親として認定されると登録できる仕組みとなっている。子どもの状況、親が連れ戻しに来る可能性が少ないなどの場合、児童相談所が里親に委託する判断をする。これにより、一時保護所の定員超過解消にもつながる。
首都圏に住む佐藤さん(仮名)夫妻は今年の夏、一時保護の8歳(小2)と5歳(年中)の姉妹を里親として預かった。佐藤さんは数年前に里親制度に登録、実際に預かるのは今回が初めてだった。
「ネグレクトで保護した姉妹で、『いま一時保護所がいっぱいで預かれないので、保護してくれる家庭を探している。明日から即日お願いしたい』っていう連絡がきました」
母親の育児放棄で通っている小学校や保育園から「姉妹が通ってこない」と児童相談所に連絡があり、職員が自宅を訪れると母親の姿はなく、姉妹を保護。そのまま病院に入院する状態だったという。
「最初は緊張しているだけなのか、おとなしい感じの姉妹だったんですけど、1週間位すると(上の子が)物を投げたりとか食器を割り出したりとか…。感情の起伏はそんなになくて、静かに割るという感じですね。いきなり手でバーンって物を落とすような感じ」(佐藤さん)
これは「お試し行動」といい、虐待などを受けた子どもたちが「この人たちは本当に安全なのか」「信じられる人なのか」を確かめる行動と言われている。
そんな中でも佐藤さんたちの愛情を受け家庭生活を始めた姉妹は、砂場遊びや人形遊びをするようになる。また、やったことがないという「お誕生日会」を開き、旅行にも行った。
「子どもを預かる前から旅行が決まっていたので、子どもも連れてくことにして。海に行ったんですけど、そういうの(旅行)もなかなかできないことだったみたいで。『旅行』と言ってもピンとこないようで『遠足だよ、遠足』と言ったら『遠足行くんだ』って言って、楽しそうに出発しました。海はたぶん初めてだったと思います。必死で貝殻拾いをしてました。やっぱり旅行は一番楽しそうでしたね」(佐藤さん)
そのほかにも、補助輪なしで乗れるようになった自転車、夜寝る前の絵本、極度の偏食も少しだけ改善し炊き込みご飯も食べられるようになった。
里親の一時保護預かりの期限が近付いた1カ月半の生活の後、姉妹は親元へは戻らず児童養護施設へと預けられることに。佐藤さんは自身の経験から里親制度の普及を強く願っている。
「1対1でちゃんと関わってあげられたり、いろんな場所に連れてってあげられたり、お洋服とかも好きなものを買って着られたりとか、そういう自由がたくさんあったのは子どもたちにとって良かったんじゃないかなって思っています。一時保護所では、保育園や学校や学童には一切通えなくなるので。やっぱり子どもは家庭的な場所で育つのが一番だと思うので、子どもが大きくなってから家庭という場所を知ることができますし、とてもいい制度だと思っています」
■里親制度は「安易には勧められない現状」
2018年度に、虐待を理由に一時保護された子どもは延べ2万1268人(一時保護所に預けられたのは1万6689人)。このうち、一時保護所よりも緩く学校などにも通える児童養護施設に行ったのは約11.2%、里親に預けられたのは約2.7%しかいない。宮島教授は「里親委託は増やしたいが、安易には怖くて勧められない。里親の善意や頑張りに依存し、バックアップ体制が不足している。高齢者のデイサービスやショートステイのような体制が、児童の分野であってもいいのでは」との見方を示す。
また、姉妹を受け入れた佐藤さんも児童相談所の担当者の忙しさを感じたという。担当者と里親担当の2人が対応してくれたが、電話をしても不在や別件でなかなか連絡がつかず、折返しの電話が来るのも1週間後ということがあったそうだ。
里親の不足を抱える里親制度について、慶応大学特任准教授などを務めるプロデューサーの若新雄純氏は「覚悟を持って引き受けたいという人も一定数いるが、これをうまくマッチングするサービスも充実していない。100件がマッチングしたとしても、相性が悪い、預けた先でのトラブルなど、何件かは残念なケースが出てしまうと思う。自治体のサービスの考え方は、100のうち良いことが99あっても、悪いことが1つあると『これはどうなんだ』となりがちなので、普及するのはなかなか難しいと思う」と懸念を示す。
一方、子どもの親権に関して「奪う以上に誰が代わりに持つかということの方が難しい」としたうえで、里親が担う役割については「施設ではなく“親”となると、ご飯と寝床を与えてくれる存在を超えて人格・感情を引き受ける役割、さらには(子どもの)すべてを決定する“権力”を持ってしまうので、その人が親としてふさわしいかを見極める方も難しい。社長や政治家はふさわしいかどうかが当たり前にチェックされるが、親に交代する制度・システムはない。子ども1人にとってみれば親の権力はものすごく大きく、それだけ親に与えられた責任は重いと感じた」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
▶映像:里親語るネグレクトで保護した姉妹との生活
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