28日に名古屋ドルフィンズアリーナで行われた「K-1 冬のビッグマッチ 第2弾」。地元ゆかりの選手が数多く参戦した名古屋の地でのK-1で「新旧名古屋対決」と銘打たれた大和哲也(大和ジム)と不可思(クロスポイント吉祥寺)の初対戦は、「ベテランと気鋭」という枠を越えた魂を交わし合う戦いとなった。
名古屋の大和ジムから全国区にその強さを発信してきた大和。キックボクシングの世界でタイトルを総なめし、2010年にはK-1 WORLD MAXの-63kgの日本王者となった。その後ムエタイでの華々しいキャリアを経て、再び新体勢となったK-1に30代に入って再挑戦。昨年タイトル戦に臨むも敗れ、K-1から去ることも考えたが、踏みとどまった2019年だった。
一方の不可思にとっても名古屋はキャリアの出発点となった特別な地だ。駆け出し時代には「憧れの人」大和のジムに出稽古で訪れたこともあり「試合をするというのは考えられない位の存在」と当時を回想した。その後、彼はKNOCK OUTやRISEなどで頭角を現すことに なるが、偉大な先輩・大和への尊敬の念と共に今日まで歩んできた。
長らく同じムエタイ、キックボクシングの世界に居ながら異なる団体に属し交わることはなかった二人だが、今年6月不可思のK-1参戦、そしてK-1名古屋大会開催。全てのピースが揃い、初対決の物語が動きだした。
1R、軽快な出し入れからの左ジャブなど徐々にK-1対応も進む不可思に対し、引き気味に構えて的確なローを放つ大和。お互いの動と静が垣間見える緊迫感のある序盤。2R、前にプレッシャーをかける大和に膝を飛ばす不可思。すかさず左フックを振り回す大和に、素早く反応した不可思の右フックでグラつかせる。その後も右フックに鈍い音が響くが、気持ちの強さを見せる大和は、前進し攻め続けた。
大和もパンチを放つがどれも力は無い。一方、不可思は被弾しながらも鋭いパンチを放ち大和のボディ・顔面を捉える。大きなダメージを受けても前にでる大和、すでにパンチの精度は落ち全て空を切るも、気持ちは折れていない。それでもクリンチ気味の近い距離から泥臭くアッパーやフックで抵抗した。
最終3R序盤、息を吹き替えした大和が、ボディの連打を起点に攻撃に出るが、打ち合いに出た不可思が冷静にコーナーに大和をコーナー際に追い詰め左右のラッシュ。全て顔面を捉えると大和の動きが止まった。もはやロープの反動で支えられている状態だが、不可思が容赦なく左右の連打をまとめると大和は崩れ落ちた。カウントを聞き、這うように立ち上がる大和。最後の力を振り絞り、大きな息をつきファイティングポーズを取るも10カウントには間に合わずKOが告げられた。
試合後、尊敬する大和超えを果たした不可思は深々とリングに手を付き深々と頭を下げ、大和も笑顔で勝者を讃える。マイクを握り「お前ら見たか。来年、俺がK-1のベルト獲るんでよろしくお願いします」と威勢よく叫んだ後には、涙ながらに「調子に乗ってすみません。先輩の哲也さんと戦えて、勝つことができて……ちょっと信じられないくらい今嬉しいんですけど、本当に哲也さんありがとうございました」と感謝を表した。さらに不可思は試合後「試合に勝って、初めて泣いた。ありがとうございました」とツイートしている。
不可思が憧れを超えていくために見せた無慈悲なラッシュは、1人のファイターが成長していく過程での通過儀礼のようにも見えた。今回の「大和超え」は、彼にとって来年のスーパーライト級戴冠に向けた重要な通過点になりそうだ。