チームリーダー久保利明九段(44)のもとに届いた年賀状には「よかったら選んで書いてあった」という。プロ将棋界初の団体戦となった「第3回AbemaTVトーナメント」。4月4日に放送されたドラフト会議で、「自分は(12人のリーダーの中で)唯一の振り飛車党なので」と、1巡目に実力者・菅井竜也八段(27)を指名した。そして2巡目、さらなる振り飛車棋士として白羽の矢を立てたのは、年賀状の送り主・今泉健司四段(46)だった。新年早々の“売り込み”にも「書いてなかったら選んでなかったですね」と笑みをこぼしたが、堂々と立候補する男気には、心を打たれていた。
非公式戦ながら、将棋関係者・ファンの間で高い認知度を誇る超早指し棋戦、AbemaTVトーナメント。久保九段は第1回、菅井七段は第2回に出場した。いずれも優勝は逃したものの、アマチュアにはファンが多い振り飛車の魅力を見せつけた。また、この棋戦に向けて練習した間柄。「菅井八段は振り飛車党の中ではトップ。第1指名しようと思ってました」と、パートナーに選ぶのは至極当然といった流れだった。
では2巡目はどうするか。コンセプトは「チーム振り飛車」。さほど多くないプロの振り飛車党となれば、候補は絞られてくる。その雰囲気をドラフト前に察知したのか、今泉四段が立候補した。年始の挨拶に添えた猛プッシュに、久保九段は「そういう男気ある人が結構好きなので、期待に応えてもらおうかと思います」と微笑んだ。41歳にして、アマチュアから編入試験を経てプロ入りした苦労人。久保九段、菅井八段と同じく関西所属でもあり、手も挙げやすかったのだろう。かくして布陣が固まった。
持ち時間5分、1手指すごと5秒加算という独特なルールは、プロ将棋界でもそれほど経験者がいない。最終盤は1手に数秒しかなくなるケースもあり、プロ棋士らしからぬミスが起こることもある。この特殊な環境下においては、振り飛車が優位に働くという読みが、久保九段にはある。「玉を堅く囲いやすいので、向いてるんじゃないかと思います。(時間を稼ぐ)戦い方ができるので」。少々の攻撃ではびくともしない陣形を築き、時間のプレッシャーから解放される。これは大きなポイントだ。参加する全12チームの中でも、明確な特徴を持った久保チーム。戦いぶりだけでなく、3人によるトークパフォーマンスもファンは大いに楽しみにしている。
◆第3回AbemaTVトーナメント
第1回、第2回は個人戦として開催。羽生善治九段の着想から生まれた持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算されるフィッシャールールは、チェスなどで用いられるもの。1回の対戦は三番勝負。過去2度の大会は、いずれも藤井聡太七段が優勝した。第3回からはドラフトを経て構成される3人1組の12チームが、3チームずつ4つのリーグに分かれて総当たり戦を実施。1対局につき1勝を1ポイント、1敗を-1ポイントとし、トータルポイントの多い上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出する。優勝チームには賞金1000万円が贈られる。
◆出場チーム&リーダー
豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位、佐藤康光九段、三浦弘行九段、久保利明九段、佐藤天彦九段、広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、稲葉陽八段、Abemaドリームチーム(羽生善治九段)