プロ将棋界初の団体戦を、早くも満喫している男がいる。4月4日に放送された第3回AbemaTVトーナメントのドラフト会議。12チームのリーダーがそれぞれ意中の棋士を指名する中、木村一基王位(46)は行方尚史九段(46)、野月浩貴八段(46)と「73年会チーム」を結成した。この組み合わせに思わず感動するファンも続出したが、木村王位は「よく話している3人。誰がミスしても、ものすごく恨むか全く恨まないか、いずれにしてもきれいさっぱり」と、集まった報道陣を笑わせた。同い年3人で肩を組み、活きのいい若手をなぎ倒す。そんなイメージすらできているかもしれない。
▶映像:「将棋界初」ドラフト会議開催!藤井聡太七段に1巡目で複数チームから指名が
ドラフト会議を振り返った囲み取材から、口の調子は絶好調だった。「佐藤天彦さんは抽選が2回外れたので、もう1回ぐらい外れないかなと思ってたんですが、2回に終わって残念です」とジョークを飛ばし、「人の悔しい顔を見るというのが将棋指しにとっては大変うれしいこと」と、いたずらっぽく追い打ちもかけた。ただ「『選ぶ』というのは、やりにくいなという面もありました」と、人と人との関わりを大切にする本音の部分ものぞかせた。
団体戦となれば、自分が戦わない時は仲間を応援する立場になる。思い起こされたのは、将棋AIとプロ棋士が戦った時のことだ。「同業の他者がやっているのを応援するのは、ソフトと棋士がやった時以来じゃないですかね」。今となってはAI(ソフト)の方が強い、というのが共通認識。ただ当時は、飛躍的に強くなるAIに対して、人間である棋士がどこまで食い止められるか。そんな状況だった。例えるならば1973年生まれの3人は、いずれ20代を中心とする若手の台頭に日々、圧力を感じている。元気いっぱいの若手に、同い年の仲間が奮闘する様子を控室で見れば、いつもとは違う汗を手に握ることになる。
改めて団体戦については、「楽しみですし、できれば勝ちたいです。1対1でやっている時と似ているところ、全然違うところがあるでしょうし、相手チームが喜んでいたらカッとなると思います」と、勝負師の魂を燃やし始めた。「どこのチームにも負けたくないですよ」。その粘り強さから“千駄ヶ谷の受け師”の異名を取る木村王位が「早指しも得意な面がある戦えるメンバー」と語る73年会チーム。絆の強さは12チームの中でも最強クラスだ。
◆第3回AbemaTVトーナメント
第1回、第2回は個人戦として開催。羽生善治九段の着想から生まれた持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算されるフィッシャールールは、チェスなどで用いられるもの。1回の対戦は三番勝負。過去2度の大会は、いずれも藤井聡太七段が優勝した。第3回からはドラフトを経て構成される3人1組の12チームが、3チームずつ4つのリーグに分かれて総当たり戦を実施。1対局につき1勝を1ポイント、1敗を-1ポイントとし、トータルポイントの多い上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出する。優勝チームには賞金1000万円が贈られる。
◆出場チーム&リーダー
豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位、佐藤康光九段、三浦弘行九段、久保利明九段、佐藤天彦九段、広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、稲葉陽八段、Abemaドリームチーム(羽生善治九段)