差別解消のメッセージのはずが新たな分断を?ナイキCMに違和感を表明する声も…解決法は"嫌なら見るな"しかないのか
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 差別撤廃やスポーツの力を示すというメッセージを込め、アスリートたちのリアルな実体験に基づいて作られたナイキの動画。先月28日にYouTubeで公開されると立ちどころに話題を呼び、2日午後の時点で1000万回に迫る勢いで再生されている。

 ただ、その評価は大きく割れている。「もっとこういうCMが増えるといいな」「差別問題を取り上げるのは、素晴らしい企業活動だ」と、YouTubeの「高い評価」が5.1万回に達する反面、「日本人全員が人種差別をしているような映像になってはいないか」「得しているのは登場人物とナイキだけではないのか」といった批判の声も少なくなく、「低い評価」は3.1万回に上っている。

■「反レイシズムが根付いていない日本社会に気付かされる」

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 動画の内容について、レイシズムなどを研究する大阪市立大学研究員のケイン樹里安氏は「聞き取り調査をさせていただく中で出てくる内容と重なるような表現もあり、非常にリアルで細やかな表現だと感じた。“いや、そんなの僕は見たことないよ”と言われてしまいがちな、普段はなかなか表に出にくい差別の形も描かれていて、非常にすばらしいと思った」と話す。

 「そもそもレイシズム、人種差別の問題については、日本企業が取り組んでも良かったはずなのに、ずっとほったらかして来た部分があると思う。だからこそ、ナイキがこうして取り上げられ、目立っているということだ。そのこと自体がおかしいとも言えるし、それだけ反レイシズムが根付いていない日本社会に問題がある。そこに気付かされるという意味でも建設的だ」。

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 また、動画への批判についても、「“自分の周りにはなかった”とか、“大したことないと言える人が、この社会のマジョリティなんだろうと思うし、このような社会問題を気にしなくても済んでいる状況にたまたま位置づけられている人々が反発しているのだと思う。だからこそ、自分たちが知らない間に差別に加担したと指摘され、すごく動揺しているのだと思う」と分析。「マイノリティが何かを言うことによって分断が生まれているわけではなく、そもそも人種差別などの不平等と不公正が存在し、そのことによって楽しい学生生活や、アスリートとして活躍するチャンスそのものを与えられない人たちがいるということ可視化・認識するところから始めていかなければいけないのではないか」と話した。

■「いじめる側といじめられる側に分断するな」

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 他方で、幼少時にイタリアでいじめられた経験があるという元経産官僚の宇佐美典也氏は、「ものすごく嫌な気分になった。嫌いだ」と切って捨てる。

 「吐くほどいじめられた。今でも夢に出るくらいだ。だからコーカソイドに対しても、ずっと不信感を抱いてきた。しかし東日本大震災のときに米軍が日本人を助けてくれている姿を見て、自分の中のモヤモヤしたものが抜けていった。一方で、僕もいじめる側になったこともある。差別というのは、する側とされる側がいる。そのお互いがいかに理解し合い、問題を解決していくのか。そういう姿を描いてほしかったのに、今回の動画では差別される側だけが取り上げられているし、しかもスポーツによって一人で克服していくヒーローのように描かれていると感じた。逆に言えば、克服できなかった奴、スポーツができない奴は弱い奴になってしまわないか。僕がイタリア人にいじめられていた時にほしかったのは、“一緒にスポーツしようぜ”と手を差し伸べてくれる存在だった。いま、現実にイジメられている人たちが何を求めているかということも考えないといけなかったのではないか」。

 その上で宇佐美氏は「“リベラル“に言われていることだが、社会から排除されたマイノリティを認めるためにマジョリティを糾弾するようなアプローチしきた結果、社会が分断しまくっているのがアメリカだ。同じことを日本もやるのか。そうではなく、みんなで差別を乗り越えようというコンセプトで作っていかなければいけないのはないか。いじめる側といじめられる側に分断するなと言いたい」と訴えた。

 こうした指摘にケイン氏は「手を差し伸べてくれる人がいたら良かったというのは、まさしくその通りだと思う。だからこそ、動画の最後に、スポーツの上に上書きされる形で“us”、“私たち”が出てきたわけだ。この“us”の中に、自分たちもダメだと思っている人々が集まったこと自体にすごく意味があると思う」と話した。

■マイノリティ/マジョリティという対立軸に限界も?

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「宇佐美さんの怒りも分かるが、僕は動画を見て感動したし、違和感もなかった。確かにスポーツをした奴が差別を乗り越えられるんであって、そうでない人は乗り越えられないのか、という見方はされてしまうだろう。しかし、それを言い出すと何も描けなくなってしまう」と話す。

 「最近話題になった、アツギのタイツのキャンペーンと構図は同じで、今回も感動する人は感動しているのに、不快になる人は不快になっている。インターネットによってゾーニングが働かない状況になり、本来であれば男性向けコンテンツであったのが女性の目に入ったり、逆に女性向けコンテンツが男性の目に入たりすることで怒った人が炎上させるという、不毛なことが繰り返しされている。必要なのは、“not for me”、“これは私のものじゃない”という言葉のように、距離を置くことではないか。よりぶっちゃけた言い方をすれば、“嫌なら見るな”だ」。

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 さらに佐々木氏は「日本に限らず、差別があるということを言い過ぎるが故に、むしろ分断を煽ってしまうという状況に我々が疲れていて、もう一歩、分断のその先にあるものを見せて欲しいという気持ちもあるのではないか。その意味では、ケインさんがおっしゃった最後の“us”というメッセージは非常に素晴らしいものの、分かりにくい。そこが明確に見えていれば、これほど強い反発も起きなかったのではないか」と指摘。

 「もしかすると、マジョリティとマイノリティという対立そのものが有効性を失いつつあるのかもしれない。反差別の枠組みでも、マイノリティに依拠することによって声がでかくなり過ぎている人がいるという問題もある。例えばアメリカではマジョリティだと思われていた白人が実はマイノリティになりかけていたり、日本でもマジョリティだと思われていた中年男性が“キモくて金のないおっさん”とか言われ、弱者のようになっていたり現実もある。マイノリティ、あるいはマジョリティに対する眼差しが全ての言説の正しさを保証するという考え方から、もうちょっと違う正しさを考える時期に来ているのではないか」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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