将棋界の一企画にして、一大事だ。プロ将棋界の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」で、タイトル99期のレジェンド、羽生善治九段(50)が初めてドラフト会議に参加する。他の追随を許さない実績の持ち主ながら弟子を取らない羽生九段が、「棋士を選ぶ」ということだけでも、ファンは大騒ぎだ。自らの着想から生まれた超早指し戦も、今回で4回目。大会についての感想や、自身のドラフト戦略について聞いた。
持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算。羽生九段の趣味であるチェスでよく用いられるフィッシャールールを将棋に持ち込んだこの大会。個人戦だった第1回、第2回を藤井聡太王位・棋聖(18)が連覇、プロ初の団体戦となった第3回大会も藤井王位・棋聖が永瀬拓矢王座(28)、増田康宏六段(23)と組んだチームが優勝した。「このルールも4回目ということなので、すっかり1つの大会として定着してきたという感じもあります。たくさんの人も対局をしていますし、数多くの熱戦も生まれていますので、そういう意味では非常に馴染んできているという印象があります」と、非公式戦ながら大会としての成熟度が増しているという。
秒読み、切れ負けというルールは、思えば棋士たちは子どものころから、何百局、何千局と指してきたが、持ち時間が加算されるルールは、ほとんどの棋士が未経験だったはず。3年間かけて、対局も経験者も増えたことで、いろいろなものが見えてきたようだ。
大会が生まれたころから少し印象が変わっている点がある。年齢による適性についてだ。当初は、他の早指し戦のように若手が有利に対局を進めると思われた。優勝こそ若い世代が続いているものの、全体の対局を見渡すとベテランの健闘ぶりも光った。「時間のない状況で指しているところが多いという、経験値みたいなものも活きるのかなという印象も持っています。一方で若い人ならではの反射神経のよさも如実に現れています」と、ベテランの経験と若手のスピードの両方が活かされるルールだと説明した。
そして、話題はいよいよ自身初のドラフトに入った。重視したいのは積極性だ。「一応アグレッシブなメンバー構成にできればいいなと。時間の短い将棋でもありますし、思い切った将棋が指せるチームが作れればと思います。積極的な棋風の方を指名するつもりです。年代は、私とは違う年代の人を指名します」。この時点では、いわゆる“羽生世代”の指名はないと口にした。とはいえドラフトは重複も十分に起こり得る。「全く誰が誰を指名するのか予想できないので、出たとこ勝負というところです」と、事態によっては指し手同様に“羽生マジック”が繰り出されることも十分に考えられる。むしろ羽生九段ほど、誰を指名するかわからない棋士はいない。
個人としては、あまり好結果を残せていない大会ではあるが、意欲は十分だ。「今回さらに規模が拡張されたということなので、団体戦ならではのおもしろみ、深みというものが出てくるのではないかなというふうに思っていますし、対局者としても視聴者としても、この大会を楽しんでやっていきたいです」と、指すだけでなく見ることも楽しむつもり満々だ。ファン大注目のドラフト会議。実は一番楽しみにしているのは、羽生九段本人かもしれない。
◆第4回ABEMAトーナメント 前回までは「AbemaTVトーナメント」として開催。第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦になった。チームはドラフト会議により決定。リーダー棋士が2人ずつ順番に指名、重複した場合はくじ引きで決定する。第3回は12チームが参加し永瀬拓矢王座、藤井聡太王位・棋聖、増田康宏六段のチームが優勝、賞金1000万円を獲得した。第4回は全15チームが参加。14チームは前年同様にドラフトで決定。15チーム目はドラフトから漏れた棋士によるトーナメントを開催、上位3人がチームを結成する。対局のルールは持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チーム同士の対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負に変更された。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。