ネイマールは今年の2月に30歳になった。今の彼は、かつてサントスやバルセロナにいた大胆で陽気な少年とは、まるで別人のようだ。

 終了したばかりのシーズンは、彼がヨーロッパに来てから最低の出来だった。彼がゴールに絡んだのは21回(13ゴール・8アシスト)。他のシーズンに比べると物足りない数字だ。例えば、バルセロナでの2015-16シーズンは、31ゴール・22アシストという成績だった。もちろん不調は怪我のせいもある。
 
 パリSGに来てからの5シーズンで、ネイマールは全く怪我をしなかったシーズンは一度もない。2021-22シーズンは、11月から2月の半ばまで負傷欠場していた。出場したのは28試合(うち先発は27)のみ。1試合当たりの平均ゴール数は0.46に留まる。

 2017年夏、ネイマールは2億2200万ユーロ(約288億円)という史上最高額でパリSGに移籍した。彼がチームをヨーロッパの頂点へ導くことを期待してのことだ。それから5年、その目標を達成できないばかりか、キリアン・エムバペの陰に隠れる選手になってしまった。
 
 一方で、問題を起こすことにかけては一級だった。エディソン・カバーニとの諍い、レオナルドSDとの不和、チームを出ていくと騒ぎ、女性問題、スポンサー、ナイキとの決裂……。

 地元パリのラジオ・モンテカルロの記者たちによると、ネイマールは毎回練習に遅れてやってくるという。解説者のダニエル・リオロに至っては、ネイマールは何度もアルコールが入った状態で、グラウンドにやって来ると告発する。もちろんネイマールはそれを全否定しており、どちらの主張が正しいかはわからない。しかし、これがフランス流の非難のやり方なのだ。とにかくパリはもうネイマールが我慢できなくなっている。

「パリ・サンジェルマンのサポーターはネイマールの馬鹿げた行為も、ネットフリックスのドキュメンタリーにも我慢できない。チーム幹部は彼に小切手を切るのをやめ、追い出すべきだ」

 そう前出のリオロは言う。

 その非難の声がより大きくなったのはチャンピオンズ・リーグ(CL)でレアル・マドリーに敗れた試合だ。怪我から復帰したばかりということもあるが、ネイマールの動きはテンポが合っておらず、チームを助けるどころか足を引っ張った。

 ネイマールはその後の5試合でサポーターにブーイング浴びせられることになる。特に直後のボルドー戦では、3-0で勝利し、優勝に一歩近づいたにもかかわらず、パルク・デ・プランスはネイマールへの怒りを爆発させた。ブーイングに怒声、罵りの言葉が雨あられと降ってきた。

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 パリSGではうまくいっていなくても、ネイマールはワールドカップ予選でブラジルをけん引し、史上最高の成績でカタール行きを決めた。ロシアW杯後の46試合でネイマールはブラジルのゴールの30%に絡んでいる。

 セレソンはネイマールの避難場所だ。ここにいれば心穏やかに、そしてスターでいられる。

 ただ、そんな代表の空気も少しずつ変わってくるかもしれない。代表監督のチッチは、近年のパルメイラスの躍進の原動力である26歳のラファエウ・ヴェイガを高く評価している。ヴェイガは2021年のコパ・リベルタドーレスの決勝でもゴールを決め、2月のクラブワールドカップではチェルシーに敗れたものの、1点を奪っている。代表でプレーするに値する選手だとチッチは何度も繰り返している。そして彼のポジションはまさしくネイマールと同じなのだ。
 
 今のところネイマールの代表での地位は安定している。しかし多くのブラジル人セポーターも彼に愛想をつかし始めているのは事実だ。彼がロシアで繰り広げたネイマール劇場を人々は忘れてはいない。誰かと接触するたびに大げさに痛がり転がり、世界のもの笑いとなった。また、彼が2021年パンデミックの真っ最中にド派手なパーティーを自宅で開いたことも人々は覚えている。

 チッチも評価する選手が台頭してきたならば、ネイマールにとって事態は穏やかでなくなるだろう。カタールW杯は30歳の彼にとって最後の大会となるはずだ。ネイマールの名前をサッカー史上に残す鍵は、態度を改め、チームを助け、ブラジルを優勝させることだ。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。




 ネイマールがまだサントスでプレーしていた18歳の頃、アトレチコ・パラナエンセ戦で監督の交代指示に応じになかったことがある。テレビカメラの前で彼ははっきりと「NO!俺は出ない」と拒絶した。

 当時の指揮官だったレネ・シモエスは試合後こう語った。

「ネイマールは18歳にしてビッグスターだ。しかし彼はこんな態度をとるべきではない。監督と観客に対する侮辱だ。我々は彼に“人生とはそんなものではない、サッカーでは他人をリスペクトしなければいけない”と教えなければいけない。そうでなければモンスターが出来上がるだけだ」

 そして今、パリでも同じ言葉が聞かれた。

「ネイマールという素晴らしい選手を我々はあまりにも好き勝手にさせてしまった。その結果我々は彼をモンスターにしてしまった。クラブ史上最も高給取りの彼は、PSGをもっと高みに導かなければいけなかった。しかし今はどこに行っても嫌われ者だ。彼のふるまい、性格、すべてが嫌われている」

 ダニエレ・リオロ記者はこう言った。
 
 激しい非難に応えるかのようにネイマールはSNSにこんなメッセージを載せた。

「サッカーは恩知らずだ」

 今日のサッカーは、ネイマールの情熱よりも不安を掻き立てる材料の方が多いようだ。

 パリSGは、レオナルドに代わり、ポルトガル人のルイス・カンポスがSDに就任するのが決定的となっている。彼はモナコでエムバペと一緒に仕事をしていた人物だ。カンポスの目にネイマールは、チームに益よりも問題をもたらすことが多い選手と映るだろう。だから、もしそれなりのオファーが来れば、彼は喜んで30歳の10番を放出、もしくはレンタルするはずだ。

 ただ彼の高い報酬は誰しもが払えるものではない。パリSGは9000万ユーロ(約117億円)以上でなければ、ネイマールを売る気はない。契約は2025年まであり、歓迎されない存在であっても、簡単に移籍もできない。それがネイマールの置かれている現状だ。彼が唯一移籍できるとしたらそれはプレミアリーグのチームだろう。今のところ一番興味を示しているのはニューカッスルだ。

 最近、パリ市内のパリSGショップではある異変が起こっている。ネイマールのユニホームやグッズがとても品薄なのだ。そして店のメインに飾られているのはリオネル・メッシとエムバペの商品だ。パリSGの今後のプロジェクトを、彼のチームでの立ち位置を物語っているかもしれない。