「自分の爆発的なスピード、球際、走力の部分では誰にも負けないというか、負けたくないと思っている。そこには自信を持っています」

「ただ、(カタールW杯アジア)最終予選で(三笘)薫や(田中)碧が日本を勝たせている姿を見て、自分はまだまだ足りないなと。彼らは数字で示している。そこが大事なんだなと再認識させられました」

 今回のEAFF E-1サッカー選手権に挑むに当たり、東京五輪経験者の相馬勇紀は神妙な面持ちでこう語っていた。

 1年前の世界舞台では1次リーグと3位決定戦のメキシコ戦など3戦に先発出場し、三笘以上の働きを見せながら、その後は今年1月のA代表国内組合宿に呼ばれただけ。同世代の仲間たちが次々と飛躍していく様子を目の当たりにして、強い危機感を覚えていたに違いない。

 カタール行きを叶えようと思うなら、このラストチャンスを逃してはいけない…。そんな覚悟と決意が19日の香港戦から色濃く出た。相馬は開始早々の2分にいきなり直接FK弾を叩き込み、存在感をアピールしてみせたのだ。

 リスタートからの攻撃は森保ジャパンの大きな課題。直接FKに至っては、2019年11月のW杯2次予選、キルギス戦で原口元気が決めたゴール以来なかっただけに、指揮官にとっても力強く感じたことだろう。

 この試合では後半に入ってから山根視来のクロスに飛び込んで2点目も奪っており、いきなり数字を残すことに成功した。

 続く24日の中国戦。5-4-1システムでブロックを固めてきた相手を崩しきれず、スコアレスのまま迎えた64分から森島司に代わってピッチに立った相馬は、グイグイと左サイドをドリブルで突破し、チャンスを作ろうと試みた。

「相手がブロック敷いていた中、ハメられた時の打開策はドリブルで1人剥がしていくとチャンスが生まれるということ。それは試合を見ていて感じていたので、仕掛けることを意識しながら入りました」と本人も迷わず自分のストロングを出すことに徹した。

 彼自身が特にこだわったのが84分、野津田岳人の右CKがこぼれた場面だ。

「以前だったら1人かわしたところでクロスを上げていましたが、奥深く、ゴールエリアの横まで入ることが相手にとっては本当に嫌で。そこまで入り込むことは大切だと改めて感じたので、それをもっともっと増やしていきたい」という明確な意図のあるプレーを見せた。惜しくも杉岡大暉のシュートは枠の外となり、日本を勝たせる大仕事はできなかったが、彼が入ってガラリと流れが変わったのは紛れもない事実と言える。

 大胆な仕掛けができたのは、名古屋グランパスの本拠地である豊田スタジアムで中国戦を戦えたことも大きかったという。

「周りの景色だったり、だいたいの距離感、芝の感触だったりは他の選手に比べて分かりやすい。そういったところは優位に働く」と、相馬はホーム感覚で伸び伸びとプレーできていることを明かす。

 だからこそ、27日の韓国との最終決戦でも攻撃陣を力強くけん引しなければならない。2019年12月の前回大会でも途中出場しながら、韓国に0-1で敗れている分、燃えるものはあるはずだ。

「韓国の試合は少し見ましたけど、やっぱり球際のところが激しい。でも絶対に勝ちたいというか、勝てる気しかしないというか。『絶対に叩く』という心の準備ができているので、それをピッチで示せればいいのかなと思っています」

 本人が語気を強めた通り、そういう気迫が中国戦に挑んだ日本代表には少し欠けていた印象だった。無難なプレーばかりだと、今大会のタイトルも、カタールW杯滑り込みも果たせない。リスク覚悟でチャレンジしなければ、道は拓けてこない。そのくらいの大胆さを感じさせるのは、今のチームでは相馬くらいだと言っても過言ではないだろう。

 欧州組を含めた現有戦力を見渡しても、サイドは伊東純也、三笘という個の打開力に秀でたアタッカーに依存しがちだ。万が一、彼らにアクシデントが起きた際、穴を埋める人材はそうそういない。相馬であれば、左右両サイドをこなせるし、世界に通じるドリブル突破力を備えていることは1年前の東京五輪で実証済み。しかも、直接FKを決められる高度なキック力もあるとなれば、森保監督も選ばない手はないのだ。

 指揮官の背中を力強く押すためにも、韓国戦勝利と2013年韓国大会以来の優勝は必要不可欠なテーマ。それをクリアすることが彼にとっての重要命題である。

「まずはチームのために走ること、チームために戦うこと、そしてゴール、アシストをすることが自分の仕事だと思っています」

 自身が掲げた全てのタスクを100%こなした先には必ず希望が見えてくる。そう信じて、キレと鋭さを兼ね備えた小柄なドリブラーはピッチを駆け抜けていく。

取材・文=元川悦子