2022年カタール・ワールドカップ(W杯)の日本代表の初戦・ドイツ戦(11月23日)まで3カ月を切った。森保ジャパンに残された強化の場は9月23・27日のアメリカ・エクアドル2連戦(デュッセルドルフ)だけ。そのメンバーは9月14日発表予定だが、指揮官も本番を見据えた26人で挑む思惑のようだ。
そこで満を持して復帰すると見られていたのが絶対的FWの大迫勇也(神戸)。しかし、8月18日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)ラウンド16の横浜F・マリノス戦で先発した後、再びケガが悪化。8月28日の神戸の全体練習に参加しておらず、9月3日の京都サンガF.C.との下位直接対決を回避せざるを得ない状況のようだ。当面の公式戦に出られないとなると、9月の代表2連戦帯同も絶望的。本番での大迫不在がいよいよ現実味を帯びてきたと言っていいだろう。
6月シリーズでは、浅野拓磨(ボーフム)、古橋亨梧、前田大然(ともにセルティック)、上田綺世(セルクル・ブルージュ)の4人がテストされたが、ブラジル、チュニジアといったW杯出場国相手にゴールへの道筋を見出せなかった。森保一監督の評価が一番高い浅野は近年フィジカルが強くなり、前線で起点を作れるようになってはきたが、今季ドイツではノーゴールにとどまっている。古橋と上田はそれぞれのクラブで得点したが、W杯でドイツやスペインと対峙することを考えると、彼らに1トップを任せるのはリスクが高い。
そこで浮上するのが、岡崎慎司(シント=トロイデン)ではないか。
36歳のベテランFWはご存じの通り、8月19日に同クラブと正式に契約し、20日のオーステンデ戦でいきなり先発フル出場を果たした。この試合では香川真司と2トップを組んだが、しばらく公式戦から遠ざかっていたとは思えないほど動きにキレがあり、得意の裏への飛び出しも何度か見せていた。前線からの守備やタメを作る動きも日本代表常連だった頃と変わりない印象だった。ゴールこそ奪えなかったものの、「岡崎ここにあり」を色濃くアピールしたと言っていい。
続く27日のメへレン戦も連続スタメンでピッチに立ち、今回はケガから復帰した林大地と2トップを組んだ。香川を含めた3人の距離感がよく、岡崎も何度かゴール前に飛び出していた。ジャンニ・ブルーノが奪った2点目の場面も最初のシュートに岡崎も反応していて、背番号30のゴールになっていてもおかしくなかった。さすがかつてドイツ・ブンデスリーガで2シーズン年連続2ケタゴールを奪った選手。前線での嗅覚は衰えていない。2戦続けてフル出場したところを見ても、体力的には全く問題なさそうだ。
「もともと自分が海外に行ったのは、代表で活躍するため。世界で戦うためには海外にいないとアカンと考えて、2011年に出ていった。だから、俺の中では日本に帰るのは、代表を降りることと同じだと思ってます」
昨年11月のインタビュー時にこう語っていた岡崎。今回のシント=トロイデン入りも「カタールW杯行きの可能性が少しでもあるなら、それに賭けたい」と考えたからだろう。ちょうど、森保監督も24日から渡欧しており、欧州組を視察している。代表のコアメンバーの1人と目されるシュミット・ダニエルがいる同クラブには近日中に訪れるだろうし、岡崎本人とも話をするのではないか。その会談と今後のパフォーマンス次第では、逆転メンバー入りもないとは言い切れないのだ。
「森保さんの中ではたぶん、FWってポジションじゃなくて、大迫という人間をその位置に据えてきたんだと思うんですよ。『サコを外して古橋を先発にしたらどうか』という意見もあるけど、そういう考えがあるならもっと前にやっていたんじゃないかな。仮にサコがダメだったら、ゴール前で体を張れるタイプの人間が呼ばれる。そういう意味では、自分にもまだチャンスがあるのかなとは思いますけどね」
彼はこんな話もしていたが、まさに今の日本代表に足りないのは最前線でターゲットになれる人材だ。しかも、ドイツ、イングランド、スペインで戦い抜いてきた百戦錬磨の岡崎ならその大役を託すに値する。
未知数な若手を選ぶのか。それとも計算できるベテランに代表を任せるのか…。
森保監督は今、大きな岐路に直面していると言っても過言ではないのだ。
岡崎が最後に代表に来たのは2019年のコパ・アメリカ(ブラジル)。あれから3年以上の時が経過し、当時はサブだった伊東純也(スタッド・ランス)や大学生だった三笘薫(ブライトン)がエース級になった。田中碧(デュッセルドルフ)や東京五輪世代とのプレー経験も少ないが、コパ・アメリカに参戦していた板倉滉(ボルシアMG)や久保建英(レアル・ソシエダ)らと面識があり、すぐに合わせられる関係性があるのは強みだ。
しかも、明るくオープンなキャラクターはチームを前向きにしてくれる。そういう人材だからこそ、指揮官も最後の最後まで悩むのではないか。
いずれにしても、岡崎がやるべきなのは、早く新天地初ゴールを挙げること。数字で人生を切り開いてきた男にはその重要性が誰よりもよく分かっているはずだ。
さしあたって9月3日の次戦の相手はベルギー1部首位を走るヘンクが相手。そこで目に見える結果を残せば、風向きも大きく変わるかもしれない。そういう期待を込めて、大ベテランの一挙手一投足を見守りたい。
【文・元川悦子】