サッカー日本代表がスペイン代表に2-1で勝利しカタールワールドカップの決勝トーナメント進出が決まった瞬間だった。ベンチから飛び出したGK川島永嗣とGKシュミット・ダニエルは真っ先にGK権田修一のもとへ駆け寄り、3人で抱き合った。

 全く同じ光景を、グループステージ初戦のドイツ代表戦でも目撃していた。その時のことをシュミットは「ゴンちゃん(権田)のパフォーマンスによって勝利がもたらされたので、自然とヒーローに寄っていった感じです」と振り返る。

 ドイツ代表戦直前のウォーミングアップを終えたGKチームは、下田崇GKコーチと4人で「団結して戦おう」と誓った。開幕までにけが人を出さず、権田、川島、シュミットの3人でカタールワールドカップを戦っていくことが決まって、彼らの絆はさらに強固なものとなった。

 GKは極めて特殊なポジションだ。ピッチ上の他の10人に同じ役割の選手は1人としておらず、「孤独」だとも言われる。「試合に出られる選手」と「試合に出られない選手」がフィールドプレーヤーに比べてハッキリ分かれてしまうため、たった1つの場所をめぐる競争は時に残酷だ。

 ゆえに代表チームでもクラブチームでも、「GKチーム」内の人間関係がギクシャクしてしまうケースは少なくない。そんな中で、日本代表の3人は特別な関係を築き上げてきた。

 最年長の川島は「ゴンちゃん(権田)もポルトガルでやった経験があるるし、ダン(シュミット)もベルギーでやっていて、海外の基準みたいなものを理解している3人だと思う。日本を強くしたいという気持ちを1人ひとりが持っている、いいグループですし、3人それぞれ特徴は違いますけど、その中でも切磋琢磨しています」と証言する。

 過去にワールドカップを3度経験している川島だけでなく、権田も「GKチーム」の関係性や雰囲気が日本代表全体にもたらす影響の大きさを熟知している。

「GKって少し特殊で、僕らは端っこで3人で練習しているような関係性なので、『今日はちょっと元気ないな』とか、『今日すごくいいな』とかもわかる。自分がいいプレーした後も、よくなかった後でも、常に全員で(共有する)関係を築いているのがGKなんです。だから嬉しい時は一緒になって喜ぶし、悔しい時は一緒に悔しがるのがGKのいい関係性。

僕もいろいろなチームでやっていますけど、それがちゃんとできているチームは競争も健全だし、関係性もいい。逆にそれができていない時は必然的にチーム全体の士気にも関わる。そういう意味では今の僕と(川島)永嗣さんとダンの3人の関係性は間違いなく、自信を持って『いい』と言えます」(権田)

 ドイツ代表戦やスペイン代表戦で、真っ先に喜びを分かち合ったのは彼らにとって自然なことだった。スーパーセーブの快感も、ミスによる苦しみも全て共有してきたからこそ、最後は一緒になって笑い合えるのである。

 今大会は権田にとって正守護神を任された初めてのワールドカップになっている。ドイツ代表戦では自らのファウルで相手にPKを献上した後、4連続スーパーセーブで試合の流れを日本代表に引き寄せて、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。

 しかし、続くコスタリカ代表戦の失点場面では、触りながらシュートを止められなかったことが「ミスなのではないか」と批判も浴びた。本人にも「あのシュートは準備の段階でしっかりポジション修正ができていたら止められた」という感触があった。

 世界的強豪相手に劇的な逆転勝利を収めた直後の試合でまさかの敗戦となり、権田に対する非難や批判の声はこれまでになく苛烈なものに。「点を取られたら批判されるし、取られなかったら称賛される」ポジションだけに「自分のミスで失点して批判を浴びるのは当然。手のひらが表になったり裏になったりを、サッカー人生を通じてずっと繰り返しているような感覚がある」と語った守護神と同じ思いを共有していたのは、他でもない川島だった。

「どういう形であれ、失点すれば最後にGKが責任を取らなければいけない。そういうポジションだと思うし、それはこれからも変わらないと思います。日々ののトレーニングの中でそういう(失点をする)可能性を減らすための作業をするしかないし、続けていくことは僕たちGKの宿命だと思います。

最後を止めるのが自分たちの仕事ですし、その気持ちはみんな変わらないと思う。だから結果に対して、僕たちGKは常に覚悟を持って臨んでいかなければいけない。辛いというか、それがGKというポジション。そういう世界で生きているんです」(川島)

 権田がピッチ上で輝けるのは、川島やシュミットからのサポートや刺激があるから。日本代表の背番号12は、彼らの存在が自らのパフォーマンスを引き上げてくれていると信じている。2014年のブラジルワールドカップで川島の控えとしてベンチに座っていた経験も、カタールの地で躍動するまでの成長の糧になった。

「(川口)能活さんとナラさん(楢崎正剛)みたいに、僕が若い時に永嗣さんにとってのライバルになれなかったのが、日本のGKのレベルを上げられなかった要因の1つだと思っているんです。(2人とも)練習から素晴らしいパフォーマンスなので、少しでも気を抜いたらダメだし、逆に万が一けがをしたりしても、任せられるような安心感をみんなが持っている。永嗣さんやダンのおかげで、お互いライバル関係でありながらも、いい関係を築きながら過ごせているのかなと思います」(権田)

 試合に出られないなら適当でいいや……とは絶対にならない。それが3人がカタールワールドカップに出場する日本代表メンバーに選ばれている理由の1つであり、お互いをリスペクトした信頼関係を構築できる要因にもなっている。

 シュミットは「(試合に)出ないなら出ないで役割があるし、ちゃんと控えにいるというのも、それまた意味がある。そのうえでやるべきことはたくさんあるので、出られなかったらその時の役割を全うするだけ。いつアクシデントがあって試合に出てもいいように練習から準備しています」と力強く語った。

 そして川島も「自分たち試合に出ないGKができるのは、ウォーミングアップのときにしっかりしたボールを蹴ったりすることだけ。僕たちはやることをやる」と、自身4度目のワールドカップは権田のサポートに回る姿勢を明確にしていた。

「今回はこの3人ですけど、アジア最終予選は(谷)晃生が入ることも多かった。大迫(敬介)が来たり、森保ジャパン立ち上げの時には東口(順昭)くんがいたり、(西川)周作くんや(前川)黛也がいたこともあった。だから、僕ら3人は日本人GKの代表としてここ(カタール)に来ているんです。

その中で、昔から日本サッカーを引っ張ってくれているのが永嗣さんであることは間違いない。最年長で、何歳になってもああやって(姿勢で)示してくれるのは、僕らにとっては本当にありがたい存在です。僕もメディアを見るので、『シュミットを使え』と皆さんが書いているのもよく知っていますけど、そういうライバル、レベルの高いGKがいるのはすごく大事。僕にとってはそういうもの全てがモチベーションです」(権田)

 チームの主軸としてカタールワールドカップのアジア予選を戦い抜き、本大会でもゴールマウスを託されたのは権田だった。ベルギーでパフォーマンスを高め、シュミットは権田を追い落とす勢いで成長を遂げている。そして、39歳の川島は凄まじい気迫で日々の練習に臨み、キレのある動きとリーダーシップでチームを盛り立てる。どんなに小さなプレーでも細部までこだわりを見せる最年長は、常に真摯な姿勢を見せ続け、“こなす”だけのトレーニングは絶対にしない。いつも最後までピッチに残っているのは川島だ。

 日本代表のGKチームは理想的な関係性を築いてワールドカップを戦っており、フィールドプレーヤーも含めたチーム全体の雰囲気作りやグループステージでの大躍進を力強く支えてきた。目標とする「新しい景色」を見るために突破しなければならないラウンド16でも、クロアチア代表に勝ってピッチの真ん中で抱き合う「端っこの3人」の勇姿が見たい。

(取材・文:舩木渉)

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