カタールW杯に出場する各国代表の人気者を探るワールドサッカーダイジェストの短期連載『国民的スター調査隊』。その1か国目として取り上げたのはドイツだ。ブンデスリーガ取材歴20年のベルリン在住記者が、現地で支持される本当のスターを紹介する。

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 かつてのドイツ代表から国民的スターを探すのは簡単です。“皇帝”フランツ・ベッケンバウアーや“爆撃機”の異名を取ったゲルト・ミュラー、粘り強いマークから“テリア”(犬)と呼ばれたベルティ・フォクツ、“クリンジー”ことユルゲン・クリンスマン、“ケーテおばさん”の愛称で親しまれたルディ・フェラー、マラドーナ封じで有名なギド・ブッフバルトなどなど。

 2000年代の初めなら、ミロスラフ・クローゼでしょう。どちらかと言えば寡黙で地味なタイプですが、ゴールを量産し、いわば代名詞の“サルト・クローゼ”(前方宙返り)でも魅了しました。敵・味方を問わずに怒鳴りつけたり、時には相手に噛み付いたり(!!)、怖いけれど挙動が面白いオリバー・カーンも愛された選手です。

 でも、ハンジ・フリック監督率いる現在のドイツ代表に国民的スターがいるか。そう訊かれると、答に窮してしまいます。むしろサッカーファン以外に名前さえ浸透していない選手が多いのが実情です。


 あえて知名度ナンバー1を挙げるなら、世界屈指のGKにしてキャプテンのノイアーか、昨年のEURO直前に代表復帰を果たしたミュラーでしょう。試合後のTVインタビューに応えるのはまずこの2人ですし、世間にも広く名前が浸透しています。

 でも、2014年のブラジル・ワールドカップ(W杯)優勝メンバーで、それぞれ“バスティ”と“ポルディ”のニックネームで知られたバスティアン・シュバインシュタイガー、ルーカス・ポドルスキのように、お茶目なキャラで愛されているかというと違います。

 一時、こんなムーブメントがありました。大衆紙『ビルト』で唐突に連載が始まったり、ドキュメンタリー番組が放送されたり、キミッヒをスターに仕立て上げようとする動きです。でもコロナワクチン未接種問題の発覚後、彼を担ぎ上げようとする動きはすっかりなくなりました(著者・注/ファンがスタジアム観戦する際にワクチン接種証明の提出を求められていた21年秋、ワクチン接種キャンペーンの広告塔だったキミッヒが未接種という事実が判明。厳しい批判に晒された)。

 また、3年ほど前にはロイスのヘアスタイル(ハチ上を残し、サイドとバックを刈り上げる)が流行りました。街中でよくロイス風の若者を見かけましたし、理容師や美容師には「マルコ・ロイス一丁」の一言で話が通じたらしいです。その後のコロナ禍でなかなか散髪に出かけられなくなったせいか、ただ単にブームが過ぎ去っただけか、いまはあまり見かけません。


 TVをつけるとよく流れてくるのは、リバプールのクロップ監督が出演しているコマーシャルです。車やビールから、髭剃り、資産コンサルティングまで……。いま、ドイツ国民に最も支持されているサッカー関係者は、A代表とは無縁の彼かもしれません。それこそ銅像が建っても驚かないほどです。

 かつてゲッツェは一夜にして英雄になりました。ブラジルW杯の決勝で決勝点を叩き込んだからです。今年のカタール大会でも、思いがけない選手が大活躍して人気に――。そんな淡い期待を抱いているところです。
 
 ちなみに、ドイツ代表の人気者4位に推すギュンドアン(マンチェスター・C)は、ドルトムント時代にすごく優しく接してくれたという私的な理由で(笑)。もちろん、ドイツに多く暮らしている同じトルコ系の人たちからもすごく人気を集めていますね。

文●円賀貴子

※『ワールドサッカーダイジェスト』2022年7月21日号より加筆・修正

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