ディフェンスのスーパーユーティリティプレーヤー

冨安健洋は、海外で最も飛躍している日本人選手と言っても過言ではないだろう。188cmのサイズを持ち、高い対人能力とスピードを含めた前への推進力、両足から繰り出される正確なキックで、ビルドアップやチャンスメークの面でも能力を発揮できる稀有な存在だ。

アビスパ福岡の下部組織で育った冨安は、高校3年生でJ1リーグデビューを果たすと、19歳となった2018年1月にベルギー1部のシント=トロイデンに移籍。2019年にイタリアセリエAの名門・ボローニャに加入するとサイドバックとしての地位を不動のものとした。すると、2021年8月31日にはプレミアリーグの強豪・アーセナルに完全移籍。レギュラーを掴み、今や世界トップクラスの選手へと成長を遂げた。

特筆すべきは、『スーパーユーティリティー』であること。メインはセンターバック、ボランチだが、左右のサイドバックをこなす。プレースタイルは多彩で、センターバックでは巧みなラインコントロールと激しい球際での攻防を見せ、ボールを持てば両足から正確なフィード、攻撃のスイッチを入れるパスでビルドアップの起点となる。サイドバックで起用されると、スピードを生かした攻撃参加、正確なクロス、そしてサイドバックにとって一番重要な自陣での守備でも難なくこなす。

守備的なポジションであればどこでもハイレベルなパフォーマンスを見せることができる。ゆえに今の地位を築けていることも納得だ。

センターバック、サイドバック、ボランチ… 守備的ポジションのオーガナイザーで日本代表のディフェンスリーダー・冨安健洋

悔しさを味わったAFCU-16選手権。成長を誓ったU-20W杯

もともと海外志向が強かった。15歳の時に行われたAFCU-16選手権(タイ)では、U-16日本代表の守備の要として出場した。しかし、U-17W杯出場権の懸かった大一番・U-16韓国代表戦では、冨安が相手のエースに裏を取られて独走を許し、痛恨の失点。望んでいた世界大会への切符を逃すと「本当に自分が不甲斐ない。あれは完全に判断ミス。自分が行くべきかどうか迷って中途半端な対応になってしまった。絶対に世界に行きたかったのに、自分のミスで行けなくなってしまった。もうこんな悔しい思いはしたくない」と唇を噛みながら世界への想いを口にした。

そして18歳の時に念願叶ってU-20W杯(韓国)に出場。グループリーグを突破したが、ノックアウトステージ初戦となるラウンド16でベネズエラに0-1で敗れた。ベネズエラ戦後「ビルドアップは前々からの課題でしたし、今大会を通じてもなかなか良いパスも出せず、改めてビルドアップは課題だなと。守備のところでは、もっと相手を圧倒できるくらい、『自分のところで全部止めてやる』というくらいの存在になりたい」と課題を口にする一方で、「やっぱり世界に出ていかないといけないと思います」と早い段階での海外移籍を心に決めた。この僅か半年後、その言葉通り海を渡った。そして課題だったビルドアップは冨安の強烈な武器になり、守備力も世界レベルへと成長した。

センターバック、サイドバック、ボランチ… 守備的ポジションのオーガナイザーで日本代表のディフェンスリーダー・冨安健洋

カタールの地で輝けるか?ディフェンス・エースの起用法に注目

A代表デビュー当時、長く見つからなかった『CB吉田麻也の後継者』として注目を浴びた。今もそれは変わらないが、そこにサイドバック、ボランチとどのポジションでも主軸クラスという、日本代表にとってなくてはならない、替えの効かない存在となっている。

昨年末から続いた両足ふくらはぎなどの負傷の影響で、今はまだ復帰したばかり。コンディションは万全とは言えないが、今月9日のヨーロッパリーグのFCチューリヒ戦でフル出場をして勝利に貢献。今回のヨーロッパ遠征初戦のアメリカ戦のピッチに立つことがあれば、昨年11月のW杯アジア最終予選のオマーン戦以来のA代表戦になる。この遠征から本番に向けて一気にコンディションを上げていくべく、冨安は久しぶりの代表ユニフォームに袖を通す。

果たして、冨安はカタールW杯では吉田とコンビを組んで中央に壁を築くのか。ボランチとして攻守の要になるのか。サイドバックとしてサイドから攻守の起点となるのか。いずれにせよ冨安がいることでチームに安定感がもたらされることは間違いない。同時に日本の今後の10年をさらに明るく照らす存在になることも。

文・安藤隆人


Photo:高橋学 Manabu Takahashi