[キリンチャレンジカップ]日本2-0アメリカ/9月23日/デュッセルドルフ・アレーナ
ワールドカップ本大会を睨んだ場合、日本代表は序盤の主導権争いで上回り、先制ゴールを挙げない限り勝利は望めない。そういう意味では、キックオフから躊躇なく積極的なプレッシングを敢行し、継続したアメリカ戦は、理に適ったパフォーマンスを見せることができた。
反面、アメリカは故障者が目立ち、プレーの精度と強度での劣勢が顕著で、ビルドアップの初期段階からミスを連発した。いくら失敗を重ねても、GKから丁寧な組み立てを続けてくれたので、日本としてはほぼ一貫して高い位置でボール奪取に成功し、ショートカウンターから決定機演出を繰り返すことになった。
特に日本のセンターフォワードの動きに複数のDFが釣られてくれたので、鎌田大地は再三フリーでチャンスを迎えた。こうして日本は狙い通りの試合運びで快勝したわけだが、本大会で戦う相手はビルドアップの巧緻(こうち)性などが格段に高まる。概ねコンセプトが定まり、共有できたのは収穫だが、当然同じようなシナリオが描けるかどうかは未知数だ。
アメリカ戦に限れば、比較的納得感のあるメンバー選考ができて、それが勝因のひとつになった。今シーズン、所属チームで中心的にプレーできている選手を優先し、フォーメーションも従来の4-3-3から4-2-3-1に変更した。今、好調な選手を最大限活用する術を熟考し、結論を導き出した点で、森保一監督は本来の代表チーム監督らしい仕事をした。
W杯最終予選の終盤では、メンバーから外れたり出番を減らしたりしていた鎌田、久保建英らがスタメンに抜擢され、4-3-3では不可欠だった田中碧には出番が回ってこなかった。気が付けば選考基準も明確化されつつあり、2部リーグクラブ所属選手で招集されたのは、田中(デュッセルドルフ)、中山雄太(ハダースフィールド)、柴崎岳(レガネス)の3人にとどまっている。
逆に室屋成、植田直通や、ほかにない特長を備えた原大智らも選出されない実状を見ると、欧州に出るだけではなく、1部のチームでレギュラーになることが条件として確立され始めているように映る。
さらに、リーグ戦で使われている選手たちだからこそ、指揮官も所属チームでの活用方法を参考にして、久保を左ワイドで、後半は冨安健洋を右SBに移動させた。今まで左ワイドは南野拓実の指定席になっていた。つまり適性やコンディションより、個人への信頼が優先されてきた。
だが、左ワイドには久保と三笘薫、右には伊東純也と堂安律というように適性タイプを複数揃えたことで、リーグ戦で結果を出した者が出番を得られる競争原理が確立され、同時に層も厚みを増し、展開次第での使い分けが可能になった。
4-2-3-1が浮上したことで、今後、南野の競争相手は鎌田になるはずで、ふたたび4-3-3を選択する場合は、セルティックで見事なパフォーマンスを見せている旗手 怜央が田中のライバルになるのかもしれない。
それぞれの役割やライバルが明確化されると、当然、個々のタスクも整理される。強度が落ちれば席を譲るしかなくなるので、鎌田も久保も必死に守備に汗を流し、闘い抜いていた。
一方で本大会へ向けて大きな懸念ポイントが右SBだ。酒井宏樹はフランスから帰国して以来、度々故障を重ねている。それでも第一選択肢なのは判るが、東京五輪のように不動のメンバーで戦い抜けるという幻想は捨てたほうがいい。
残念ながら故障は、どうしても高い確率で再発のリスクを伴う。もちろん冨安が本番に完調で臨んでくれれば心配の種も減るが、その冨安も最近は故障がちだ。さらに吉田麻也、長友佑都らの年齢や、現在負傷離脱中の板倉滉の状態も考えれば、右SBとCBに最低もう1枚は計算が立つ選手が必要だろう。
次戦では瀬古歩夢や山根視来のプレー時間を最優先に確保するべきで、厳しいと判断するなら土壇場でも別の選択に踏み切る必要が出てくるかもしれない。
取材・文●加部究(スポーツライター)
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