サッカー日本代表のカタール・ワールドカップに臨むメンバー発表前、最後の準備が終わった。今回のドイツ遠征では、得るものも多かった。これまでの歩みから浮かび上がってきたチームの現在地、そして本大会への展望をベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生が語り尽くした。

■物足りないトップ下とサイドの関係

――堂安律はいかがでしたか。

大住「エクアドル戦で先発した攻撃陣の中では、堂安の出来が一番良かったと僕は思う。受けた人が失敗することが多かったけど、堂安からは良いパスが出ていた。ただし気になったのが、堂安を右サイドに固定しておくこと。

 アメリカ戦で左サイドに入った久保建英と同じ問題で、プレーするレーンを固定するのが森保一監督の考え方なのかもしれないけど、トップ下の選手とポジションを入れ替えながらプレーしたら、もっと攻撃に変化が出たんじゃないかと思う。エクアドル戦では南野拓実も中央で非常に苦労していたから、サイドから入っていく形にした方が、もっと何かできたかもしれないと思う。日本代表の前線には、流動性をもっとつくった方がいいんじゃないかな。例えば、前田大然だってトップもサイドもできるんだし、もうちょっと流動性を持ってプレーした方がいいんじゃないかなという気がする」

後藤「ただ、トップ下の選手が入れ替わって外に出ると、鎌田大地や南野がサイドで守備をすることになっちゃう」

大住「アメリカ戦では鎌田が左サイドに出たことがあったんだよね。短時間だったけど、特に問題はなかった。確かに鎌田の守備はちょっと弱いかなという感じはするけど」

後藤「守備を考えると、簡単にトップ下とサイドが入れ替わっていいよとは言えない気がする。日本のパスがうまく回っている時間ならいいかもしれないけど、下手に入れ替わるとサイドから崩されるのが怖いんじゃないかな。森保監督が、というより、ピッチの上の選手がそう感じるんじゃないかと思う」

大住「なるほどね。でも、攻撃面でのプラスを考えるとリスクを負う価値はあるんじゃないかと思うけどな」

■好調な選手だけW杯に呼ぶべき

――アメリカ戦でトップ下に入った鎌田は点を取り、エクアドル戦の南野は苦しんでいました。

大住「現時点では、2人の間には圧倒的な差があるよね」

後藤「南野の使い様がなくなってしまった。左サイドに置くなら相馬勇紀や久保の方が良いし、右サイドには伊東純也と堂安がいる。そう考えると、使い道がなくなっちゃう」

大住「アメリカ戦は全員コンディションが良かったけど、総入れ替えしたエクアドル戦では何人かコンディションが整っていない選手がいた。その見極めをどうするのかと、試合後に森保一監督に質問をした。要は、今回の南野のような状態の選手はワールドカップメンバーには選ばない方がいい、と思ったんだよね。カタール・ワールドカップは準備期間が1週間くらいしかなくて、日本代表に合流してから調子を上げていくということはできなくて、合流時点で感覚が研ぎ澄まされている選手じゃないと使えないし、起用しても足を引っ張るだけだと思う。つまりは、今回の南野と柴崎岳のような状態だったら、チームにいらないんじゃないかな。森保監督は、全員コンディションは良かった、と答えていたけれど」

――試合勘、試合の体力、という部分ですか。

大住「難しいんだけど、僕のイメージするコンディションの良さというのは動けるとか走れるということだけじゃなくて、感覚として研ぎ澄まされて試合に入っていける、というイメージなんだよね。最終予選に入った頃の南野のコンディションは全然良くなくて、だんだん回復していった。森保監督が我慢して使い続けた結果だと思うんだけど、モナコに移籍して、また試合にまったく出られなくなった。今回のプレーを見ると、ボールは止まらないし、堂安が良いところで渡してもリターンしてミスしたりしていた。今回のようなプレーしかできないなら、呼んでもしょうがないと思う」

■U-21代表選手の方が上?

後藤「それだけ大変な状況にあるんだろうね。これからモナコでバリバリ試合に出て点を取るようになったら話は違うだろうけど」

大住「そうならないと困るよ。せっかくあれだけの才能があるんだから」

後藤「今回モナコに移籍して急に状況が変わったのではなく、リバプールにいる間ずっと続いていたことが繰り返されている。その影響は大きいよね」

大住「苦しかったエクアドル戦の前半でも、南野が入ったポジションに鎌田か久保がいたら、全然違うサッカーになったと思う。何回かは決定的な攻撃ができただろうし、堂安も生きたし、三笘がペナルティーエリアの横でボールを受ける回数も増えたと思う。確かに総入れ替えしてもチームとしてある程度のプレーができたという収穫はあったけど、はっきり言って足を引っ張っていた選手もいた。田中がさびている感じがしたし、柴崎岳は今の日本代表のサッカーにちょっとついていけていないかな」

後藤「柴崎は長いことそういう状態が続いているから、これから戻すのは難しいかもしれないね」

大住「現状だとU-21日本代表の藤田譲瑠チマの方がいいような気がするんだよね」

後藤「エクアドル戦前日のU-21イタリア代表との試合でもしっかり中盤を締めていたよ。彼はコンスタントにできるね」

大住「森保監督のこれまでのやり方を考えると、いきなり柴崎も南野も外されることはあまり考えられないけど、総力戦で戦わなければいけないワールドカップで、戦力として物足りない選手がいるのは大きなマイナスだよね。森保監督が、どう割り切れるかに懸かっていると思う」