いまやイラン国内のみならず、世界中に波紋を広げている。

 イスラム教の女性が髪を覆うために使うヒジャブ(スカーフ)を適切に着用していなかったとして、警察当局に拘束されていたマフサ・アミニさんが、その3日後に死亡。警察による過度な暴力が直接的な死因だとの疑惑が持ち上がり、イラン国内では全国規模での抗議デモが巻き起こった。

 事件発生から2週間が経ってもデモの激しさは増すばかりで、武装した鎮圧部隊との間で衝突が頻発。10月4日時点で130人を超える死者が出ており、その政府対応に非難が集中している。

 そんななか、イラン・サッカー界の英雄であるアリ・ダエイ氏を巡るニュースが飛び込んできた。53歳の元イラン代表エースは、イスタンブールからテヘランに戻った際に空港で当局に拘束され、即座にパスポートを没収されたという。事実上の出国禁止状態に追い込まれているのだ。

 昨年9月にポルトガル代表のクリチアーノ・ロナウドに抜かれるまで、ダエイ氏が持つ国際Aマッチ得点(109得点)は長くワールドレコードだった。バイエルン・ミュンヘンやヘルタ・ベルリンなどドイツでも活躍し、幾度となく日本代表の前にも立ちはだかった名手である。当然、イラン国内での影響力も絶大だ。

 正義感の強いダエイ氏は、アミニさんの死亡を受けてすぐさまSNSを更新。「この国になにが起こっているのかと、娘に訊かれた。私はなんと答えればいいのか」とショックを受けた様子を伝えた。その後も「私はあらゆる国民と永遠に共にある。抑圧や暴力、逮捕とは異なる手段で解決しなければいけない」とのメッセージを発するなど、広がっていく抗議デモを支持。イラン政府がその言動を問題視し、帰国したタイミングでダエイ氏の自由を奪った格好だ。
 

 サッカー界ではダエイ氏のみならず、同じく1990年代後半から2000年代前半にかけて活躍したメフディ・マハダビキア氏やアリ・カリミ氏といったビッグネームも抗議デモをバックアップ。現役代表選手で、ドイツのレバークーゼンでプレーするFWサルダル・アズムンも随時メッセージを送っている。9月27日にオーストリアで行なわれた親善試合(セネガル戦)では、試合前の国歌吹奏時に全選手・スタッフが黒いジャージを着こんで哀悼の意を表明。これも抗議の一環であると、欧米のメディアが一斉に報じている。

 現在ダエイ氏がどのような状況に置かれているかは定かでないが、10月4日時点で、氏が発信したインスタグラムのメッセージは削除されていない。

 そして今後、カタール・ワールドカップを戦うイラン代表にどんな影響をもたらすのかにも注目が集まる。同代表は本大会でB組に組み込まれ、イングランド、ウェールズ、そしてアメリカとグループリーグを戦う。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部

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