川崎フロンターレ生え抜きのプレーメーカー
川崎フロンターレ“純粋培養”のタレント・田中碧は今、日本代表において欠かせない存在となっている。小学3年生から川崎のアカデミーに入り、U-15、U-18を経て、2017年にトップ昇格。1年目は分厚いボランチの選手層の前にJ1出場ゼロに終わり、2年目もデビューこそ果たすが、わずかリーグ4試合出場とプロの壁にぶち当たった。
しかしそこからブレイクスルーを果たした。大黒柱の大島僚太の負傷という状況もあったが、2年間腐ることなく足元の技術と2手、3手先を読む目を磨いた田中は、3年目でボランチとしてレギュラーの座を手にした。
足元の技術は非常に高い。だが、ユース時代は狭いゾーンでの打開力はあった。一方で、大きな展開やボールを持ちながらリズムを作るプレーが課題のように見えた。狭い局面を打開できても、大局面でのボールの配球やドリブルでの前への推進力が足りないと、ゲームのテンポチェンジや前への圧力は生み出されない。3年目で出番を得た田中のプレーを見ると、大局面でのプレーの質が格段に上がっていた。
2020年には守田英正がアンカーに固定され、田中はインサイドハーフとしての役割を担った。プロになってから攻守の切り替えの速さ、寄せのスピードも磨きがかかり、アンカーの守田に守備の負担を押し付けることなく、縦と横の頭脳的なスライドとプレスバックを繰り返しながら、マイボールになったら一気に飛び出したり、大きな展開を入れてリズムチェンジしたりするなど、プレーの引き出しとインテリジェンスがより目立つようになった。
海外移籍、東京五輪で急成長。日本代表の中軸へ
時を重ねるごとにフットボーラーとしてのスケールが広がっていく田中。昨年6月にはドイツ・ブンデスリーガ2部のフォルトナ・デュッセルドルフに期限付き移籍。海外でのキャリアをスタートさせると、同年7月には東京五輪に出場。U-24日本代表の攻撃のリズムメーカーとして、オーバーエイジで出場をした遠藤航と中盤を牽引。全6試合に出場をして、4位に食い込んだチームの中枢となり続けた。
この活躍が認められ、同年9月の日本代表ドイツ遠征に参加をし、10月にはカタールW杯アジア最終予選のホーム・オーストラリア戦で念願のアジア予選初出場を果たした。この試合は初戦でオマーンに0-1の敗戦を喫し、第3戦のサウジアラビアにも0-1で敗れるなど、3戦を終えて1勝2敗という厳しいスタートとなったなかで、負けたら早くも7大会連続W杯出場に黄色信号と言われていた。
重要な一戦でスタメン出場。しかも森保一監督がこれまでの4-2-3-1のシステムから中盤が逆三角形の4-3-3に変えたことで、田中は守田と共にインサイドハーフの位置に配置された。するとプレッシャーを物ともせず、守田とアンカーの遠藤とともに流れるような連係を見せて攻撃を活性化。8分にはFW南野拓実の左クロスがDFに当たってコースが変わるも、田中は鮮やかなファーストトラップでシュートポイントにボールを置いて、ニアを切ってきた相手GKの位置をよく見て、対角にグラウンダーのシュートを叩き込んだ。
その後もパス、ドリブル、狭い局面の打開、そして激しい守備と全ての面において持ち味を発揮。印象的だったのは、まだ代表歴が浅い田中が、並いる経験豊富な選手たちに対して臆することなく多くのジェスチャーをして自分の要求をしっかりと伝えていたことだ。冷静に、時には強めのアクションで意思疎通を図る姿は、アジア予選初出場とは思えないものだった。終盤は足が攣ってしまったが、2-1の勝利に貢献。田中の必要性と重要性を一発回答で示して見せた。
カタールW杯まであと1カ月を切った。田中の中盤での多彩な引き出しは日本に必要な武器になっているだけに、あとはコンディションを高めて、来たるべき時を待つのみ。その存在はカタールW杯だけではなく、先の日本サッカーの未来にも大きな影響を与えるはずだ。
文・安藤隆人
photo:徳丸篤史 Atsushi Tokumaru