――入江さんは日頃、サッカーとの接点はありますか?
入江 一番は漫画ですね。スポーツ少年漫画が小さい頃から大好きで、ボクシングを始めたきっかけも『がんばれ元気』を読んだからなんです。そこからボクシングだけじゃなく他のスポーツ漫画も読むようになって『BE BLUES!~青になれ~』『アオアシ』『ブルーロック』、あとは小学生の時に『キャプテン翼』も読んでいました。
――それだけいろいろなサッカー漫画を読んできて、特にお気に入りのキャラクターはいますか?
入江 え~っと、『BE BLUES!』だったらもう一条龍。 あ! いや! 待ってください。3人いますね(笑)。一条龍の幼なじみの青梅(優人)くんも好きで、小学校の時に一緒にプレーしていた久世立彦くんもいいです。
――スラスラ出てきますね(笑)。どうしてその3人を?
入江 一条龍は考え方が素敵だなって思ったんです。ケガから復活するというドラマはもちろんですけど、すごく自分の頭で考えられるスポーツ選手なので、それが理由ですね。青梅くんはセンスはあまりないかもしれないんだけど、豊富なスタミナや運動量があって、長友佑都選手みたい。努力でカバーするっていうのがカッコいいんです。立彦くんは小学生の時は有名じゃないんだけど、努力で才能を開花させる。それもまたカッコいいなと思います。
確実に才能はないです
――入江さん自身はその3人でいうとどのタイプ?
入江 絶対に一条龍タイプではないですね。青梅くんタイプだと思いますよ。確実に才能はないので。
――え!? 才能ないんですか?
入江 はい、ないですね。ボクシングを始めた時の動画を見たら下手くそすぎて笑っちゃいます。
――ボクシングは小学2年生から始めたということですが、サッカーの経験はありますか?
入江 小学校ではよくグラウンドに出てサッカーをして遊んでました。なでしこジャパンが世界一になった時はカッコいいなあと思いました。小学生の時からサッカー部ってめちゃくちゃ部員がいるじゃないですか。サッカー、野球、バスケットボールって競技人口がすごく多いなと感じていたので、そのトップ中のトップの一握りの人達っていうのは本当にすごい存在だなあと憧れていました。同じ日本代表という肩書きになった今でも、住む世界が違うように感じています。
――サッカーは団体競技でボクシングは個人競技。見たり、読んだりして、何か違いは感じます?
入江 ボクシングは自分のせいだから負ける、という感じなんですけど、団体競技は自分が 100 点満点でもチームメイトが理由で負けちゃうこともあるじゃないですか? そこを許せるのって本当に優しい人たちばっかりだなといつも思うんです。
――入江さんだったら許せない?
入江 たぶん……許せないかもしれないです。今まではずっと個人競技をしてきて、団体競技の経験は強いて挙げるなら4×100mリレーぐらいですね。自分の出来が良ければ結果に繋がるという世界で生きてきたので、団体競技をされてる方は心が広いんだろうなと尊敬しています。
サッカーは守るほうが気合が入る
――それでももし自分がサッカー選手になるんだったら、どんなポジションをやってみたいですか?
入江 絶対にディフェンダーです。私、たぶん守る方が好きなんですよね。気合が入る。体育の授業でサッカーをするときも、ボールを奪う方が好きですね。相手が攻めづらそうにしている顔を見ると、すごく楽しくなります。
――ファイトスタイルとは真逆ですね。
入江 どうしてなんですかね。ボクシングはもちろん打つ方が好きなんですけど(笑)。でもサッカーを見るなら、すぐに凄さの伝わるわかりやすいプレーがいいです。素人なのでなかなか他のところに目が届かないですから。中学生の時はネイマールが好きでした。めっちゃ華麗なドリブルで、私はメッシよりもネイマール派でした(笑)。
――日本代表で覚えている選手、知ってる選手はいるでしょうか?
入江 小学生ぐらいの時の日本代表メンバーはそこそこ覚えてます。本田圭佑選手とか守護神の川島永嗣選手。小学校の図書館に長友選手の体幹トレーニングの本があって、それを読んでました。長友選手の自伝も読みましたね、努力の塊だと書いてありました。あとは、私と同い年ぐらいの……久保くん(久保建英)? 高校生の時になんかすごい天才だっていう記事を読んで、それも覚えてます。
発表!カエルジャパン
――入江選手といえばカエル好きで有名ですが、もし“カエルジャパン”を作るとしたら、どんなメンバー構成がいいでしょうか。
入江 フォワードはウシガエルじゃないですかね。外来種なんですけど、あの食欲旺盛でなんでも食べる感じで、ゴールも奪っちゃうんじゃないかな。私が一番好きなのはヒキガエルなんですけど、どこにしましょうかねえ。結構動じないタイプだと思うのでキーパーかな。
トノサマガエルは跳躍力があるんです。センターバックって高く飛んで競り合いますよね? ここはトノサマガエルに任せましょう! あとツチガエルもいるんですよ。特徴としては自分がピンチになった時に臭いにおいを出してくる。うーん……そんなサッカー選手、いないですよね(笑)。
――日本代表は世界の強豪国に挑むわけですが、サッカー選手と同じでカエル業界も世界にはすごいタレントがいそうです。
入江 トビガエルという品種は手に大きな水かきがついていて滑空できるんです。猛毒を持つヤドクガエルとか世界にはいろいろなカエルがいます。その子たちと日本のカエルが戦うとなったら、確かになかなか厳しい戦いかもしれません(笑)。でも、だからこそ素敵な舞台ですよね。そんなすごい選手たちが世界中から大集合してるんですもんね。
――五輪と同じように4年に一度の舞台で戦う日本代表にエールはありますか?
入江 サッカーというメジャー競技だからこそ、日の丸を背負うプレッシャーも私以上に感じるんだろうなと思います。ただ、この4年間はコロナもあって私も国際大会が中止になってしまったりと大変な思いをしました。そういう状況を乗り越えて迎える特別な大舞台ですから、選手の方々にはやっぱり楽しんでいただきたいなと思います。
(構成=雨宮圭吾)
入江聖奈(ボクシング)(いりえ・せな)
2000年10月9日、鳥取県生まれ。小学校の時に読んだ『がんばれ元気』に影響を受けてボクシングジムに入門。中学校では陸上部に所属するも、高校からはボクシングに専念。2019年に日体大に進学し、2021年の東京五輪ボクシング女子フェザー級で優勝。ボクシングの日本人女子選手として、また鳥取県出身者としても史上初の金メダリストとなった。趣味であるカエル研究の道に進むため、大学卒業時の競技引退を表明している。