11月23日のカタール・ワールドカップ(W杯)初戦・ドイツ戦まで2か月を切り、森保一監督が率いる日本代表に残された強化の場も、9月27日のエクアドル戦と、11月17日のカナダ戦の2試合のみとなった。

 とりわけ、エクアドル戦はメンバー発表前最後の一戦ということで、23日のアメリカ戦(2-0)に出られなかった面々にしてみれば鼻息が荒くなる。爪痕を残そうとギラギラさせているはずだ。

 フィールドプレーヤー最年長の長友佑都(FC東京)もその1人。日本からの長距離移動で合流が1日遅れ、その影響もあって、ベテランSBはアメリカ戦で控えに回った。

 今夏にイングランド2部へ移籍した中山雄太(ハダースフィールド)の一挙手一投足を見守ることになったわけだが、試合は相手を高い位置からハメる守備がうまく機能して完封勝利。長友もこの結果を前向きに喜んだ。

「前回、良かったのは全員でしょう。全員が前から連動していたから良かった。この人、というのはないんじゃないかな。みんなが迷いなく、クリアな状況で自分の仕事ができていた」と、とにかくポジティブだった。

 とはいえ、最終予選10試合中9試合で先発した長友としては、このまま中山に左SBのポジションを明け渡すわけにもいかない。アメリカ戦の後半から左CBで出場した伊藤洋輝(シュツットガルト)も左SB要員として控えているだけに、ここは世界基準の仕事ぶりを今一度、示さなければならない。

 さしあたって、長友に求められるのは、隙のない守備。アメリカ戦の開始早々には、相手右インサイドハーフのルカ・デラトーレに深い位置まで侵入され、さらに8分には右SBのセルジーノ・デストに決定的なクロスを上げられるなど、序盤の日本は左サイドで相手の攻撃を簡単に許していた印象があった。
 
 その後、中山と久保建英(R・ソシエダ)が修正を図り、引き締まった守備ができるようになったが、不安定な入りをしていたら、W杯のドイツ戦ではアッサリ失点してもおかしくないのだ。

 そのあたりの厳しさを長友は身を持って体験しているから、周りに声をかけ、自らも徹底したマークができるはず。6月のブラジル戦で右SBとして出場した際も、時折マッチアップするネイマールに身体を寄せ、間合いを詰めながら縦に行かせないタフなマークを見せていた。

 それだけの高度な経験値は、中山にはまだない部分。世界レベルになればなるほど、長友は凄みを増す。それをエクアドル戦で見る者に再認識させることが、4度目の本大会でのスタメンにつながる。

 日頃、戦っている舞台がJリーグというのは、激しいイングランド2部やハイレベルなブンデスリーガ1部に比べると、やや見劣りするものの、そのマイナス面を払拭するような統率力と牽引力、個の強さを示してくれれば問題ない。
 
 一方で、中山は自身2つ目の異国へ赴き、開幕からフル稼働することで、自らのパフォーマンスに自信を深めている。

「チャンピオンシップの強度は間違いなく高いと思っているし、単純な個々のバトルも多い。その能力は自分も高めたい部分の1つ。だからこそ、この環境を追い求めたし、試合を重ねるごとに得られている実感はある。ワールドカップまでに世界との差を埋められると思って日常を過ごしている」と本人も語気を強めていた。

 その充実ぶりは、かつてチェゼーナからインテルに移籍した頃の長友を彷彿させるものがある。アメリカ戦では攻撃参加でも見せ場を作り、得意の左足で何本か良いクロスを入れていた。それも含めて、中山には中山の使いどころがある。それを森保監督も改めて確認したのではないか。

 さらに伊藤も控えているが、彼の場合は板倉滉(ボルシアMG)の怪我、冨安健洋(アーセナル)の離脱もあり、現状では4バックのCB要員としての比重のほうが高い。エクアドル戦では場合によっては先発で、吉田麻也(シャルケ)あるいは谷口彰悟(川崎)とコンビを組むこともあり得る。

 そこで対人の強さやロングフィード力などを発揮し、チームに貢献できれば、26人入りは確実。これで左CB要員は“2・5人”を確保できることになる。
 
 それを本番でどう使いこなすかは指揮官次第だ。ドイツとの対峙を想定するなら、23日のUEFAネーションズリーグのハンガリー戦で右に陣取っていたセルジュ・ニャブリ、ヨナス・ホフマンらの卓越した技術と推進力を封じなければならない。

 そうなると、やはり国際経験に長けた長友が一番手となるだろうが、大会直前のコンディション次第では中山、あるいは伊藤というチョイスになることも考えられる。その判断材料として、やはりエクアドル戦は重要な場。年齢を重ねてキレや鋭さを不安視されることもある長友だけに、現在地を次戦でしっかりと示し、納得させること。そこから全てが始まると言っても過言ではない。

 アメリカ戦で36歳の左SBが出番なしに終わったことで、巷では序列低下が叫ばれているが、本当にその通りなのか……。森保監督が試合ごとの使い分けを考えている可能性も少なくないからだ。

 ただ、その多様な使い方をしようにも、各々の状態がベストでなければ難しい。ゆえに、まずはエクアドル戦で長友が高い水準を示してくれることが肝心だ。国際Aマッチ137試合目となるゲームが彼自身、そしてチームに有意義なものになることを強く願いたい。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

【動画】三笘薫vs川崎フロンターレ勢の1対1が熱い!旗手怜央vs田中碧も迫力!