「(2022年カタール・ワールドカップ=W杯の代表メンバーに)選ばれてから4年前のロシア・ワールドカップの悔しい気持ちがすごく蘇ってきた。この4年間、楽しいことだけでなく辛いこともたくさんあったが、『あの悔しさを絶対にカタールで晴らすんだ』という気持ちでここまで来た。やっとスタートラインに立てた。自分自身が躍動し、日本代表の躍進にしっかり貢献できるようにしたい」
日本人フィールドプレーヤーとして史上初の4度目W杯出場を実現させた長友佑都(FC東京)は11月1日、神妙な面持ちでこう語った。
すでに同世代の本田圭佑や香川真司らが去り、「ロストフの悲劇」をともに味わった大迫勇也や原口元気も落選した今、彼には世界最高峰基準を若い集団に伝えていく責務がある。
2010年の南アフリカ大会、2018年のロシア大会の両W杯で8強を掴みかけながら、あと一歩で手からこぼれ落ちる苦い体験をしたのは彼と川島永嗣だけ。その経験を還元してこそ、日本は壮大な目標を達成できる。
本人も「精神的支柱でもあり、パワースポット的な存在としてエネルギーを注いでいきたい」と改めて覚悟を示した。
過去3大会は全11試合先発フル出場を果たしているが、今回は必ずしもそういうわけにはいかない。途中交代もベンチスタートもあり得るし、ポジションも左SBのみならず、右SBもあるだろう。
森保一監督は状況次第では3バック、5バック採用も想定していると見られるため、ウイングバックも視野に入れなければならない。11~12月の異例開催で十分な直前調整期間が取れないなか、臨機応変かつ柔軟に全ての役割をこなすことは、やはりハードルが高いと言わざるを得ない。
しかも、対戦相手はドイツ、コスタリカ、スペインという強敵ばかりだ。長友が通常通り、左SBに入る想定だと、ドイツの右サイドであれば神出鬼没な右MFヨナス・ホフマン、スペインなら技術とスピードを兼ね備えたフェラン・トーレスら能力の高いタレントと対峙し、完封しなればならないのだ。
9月のエクアドル戦では圧倒的な1対1と球際の強さ、安定感を示し、「相手が強くなればなるほど真骨頂を発揮するタフさ」を実証した長友。しかし、カタール本番になれば気象条件や心身両面のコンディションなども変化する。足かせが多い分、全てを完璧にこなすのは容易ではないだろう。
32歳だった前回も「おっさん」というレッテルを貼られ、批判にさらされた長友だけに、36歳になった今回は何か1つでもミスを犯せば、大いなる苦境に立たされる可能性もある。
そういったネガティブな要素も全て織り込んだうえで、良い意味で割り切って全身全霊を注ぎ、結果を出してしまうのが彼の凄さ。我々はその雄姿を何度も目の当たりにしてきた。だからこそ、長友には大いなる期待を寄せてしまうのだ。
「この4年間も『おっさん』だと言われ続けたけど、4年経っても『長友はここにいる』と示せたし、日々の努力は間違っていなかった。カタールでも『あのメチャメチャ走る36歳は誰だ?』という評判が世界に広まるような戦いをしたい」と本人は目をギラつかせた。
日本が「ロストフの14秒」を克服し、さらなる高みに上り詰めようと思うなら、やはり長友の存在抜きでは難しい。「エースキラー」の完全復活を果たし、若い選手たちに勇気と活力を与えるような一挙手一投足を彼には強く求めたいものである。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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