海を越えれば、日本のように安全な国ばかりだとは限らない。時には、自衛が求められることもある。コロナ禍を知った我々は、感染症への対策が重要であることを学んだ。一方で、蹴球放浪家・後藤健生は、“その先”に必要な知識があることも訴える。予防策の副作用を、予防する必要があるのだ。
■いざ、カタールへ
ワールドカップ観戦のため、間もなくカタールに渡航します。海外旅行は、新型コロナウイルスによるパンデミックが始まる直前、2020年1月のタイ旅行(AFC U-23アジアカップ取材)以来のことなので、なんかとても億劫な気もします。もちろん、ワールドカップ観戦は楽しみなのですが、なにしろ行き先が「世界で一番退屈な街」ドーハなのですから……。
出発を前に、医療機関を巡りました。根元が折れかかっていた奥歯を1本抜歯。そして、新型コロナウイルスの5回目のワクチン接種とインフルエンザのワクチン接種も済ませました。2週間後にカタールに向けて出発する頃には抗体が作られて、免疫ができているはずです。
世界中からさまざまなウイルスを持った人たちがドーハという1つの街に集まってくるわけですから、なんらかの形で感染が拡大するのは間違いないでしょう。しかも、世界各地のさまざまな変異株が1か所に集まることによって、また新たな変異株(カタール株?)が生まれる可能性もあります。
12月に帰国する時に、そうした新たな変異株を日本に持ち帰ってしまうリスクを少しでも低くするために、ここはしっかりとワクチン接種をしておかなくてはなりません。
幸い、5回目のワクチン接種は4回目までと比べて副作用は軽くて済みました。
■マラリアの恐ろしさ
予防接種がこれまでで最も大変だったのは1999年のワールドユース選手権(現、FIFA U-20ワールドカップ)を観戦にナイジェリアに行った時のことでした(狂犬病の予防接種代を浮かせるために、知人宅でトイプードルに噛んでもらったという話は「蹴球放浪記」の第103回「初めてもらったイエローカード」の巻を参照)。
海外渡航の際の予防接種専門の病院で、狂犬病のほかにA型肝炎など何本かの予防接種を受けました。しかし、担当の先生に「マラリアについてはどうにもできない」と言われたのです。
マラリアというのは世界中の熱帯、亜熱帯地方に蔓延している恐ろしい病気です。高熱が出て、死亡することも珍しくありません。後遺症も酷いといいます。
原因は「マラリア原虫」という寄生性の単細胞生物で、ハマダラカという蚊によって媒介されます。ですから、基本は虫よけスプレーなどを駆使して蚊に刺されないようにすることが重要になります。
■日本では売られていない薬
悪いことに、当時はまだマラリアに効くワクチンが存在しなかったのです(ワクチンは2010年代になって実用化されたようですが、今でも効果は限定的なんだそうです)。
1999年当時はワクチンは存在せず、予防するには予め治療薬を飲んでおくしかなかったのです。そして、マラリア原虫は遺伝子を変化させて次々と薬剤耐性を獲得するため、当時日本で販売されていた治療薬ではあまり効果がないというのです。
先生の指示はこうでした。ヨーロッパ経由でナイジェリアに向かうのなら、空港の医務室に行ってそこで治療薬を購入しなさいというのです。ヨーロッパでは、日本では売っていない強い薬を手に入れることができるのだそうです。