カタール・ワールドカップに向けたドイツ代表の26人がいよいよ発表された。
ドイツ代表監督ハンジ・フリックはキャプテンのマヌエル・ノイアー、ヨシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカ、イルカイ・ギュンドアン、トーマス・ミュラー、レロイ・ザネ、アントニオ・リュディガーといった主力を順当に選出したほか、14年W杯決勝のアルゼンチン戦で優勝へ導くゴールを決めたマリオ・ゲッツェを17年以来5年ぶりに復帰させた。スター選手の代表入りにドイツのサッカーファンも大喜びしている。
指揮官が冒頭のあいさつをした後、GK、DF、MF/FWの順番にモニターでW杯戦士が紹介されていく。その時にフリックの様子を伺ってみた。顔色を変えずにじっとモニターを見つめていた。
何を思い、何を考えているのだろう。選手のサッカー人生そのものに影響を及ぼすほどの重要案件だ。誰もが自分の名前が呼ばれることを願っているのが痛いほどわかる。選ばれた選手の歓喜、選ばれなかった選手の無念。そのすべてを背負いこむ覚悟で決断した。意志の強さを感じさせる表情だ。
全ての選手紹介が終わり、それぞれの選出について監督としての見解を述べていくフリック。その表情が少しほっこりした。モニターにW杯優勝選手や監督から激励のメッセージが流されたのだ。
「ワールドカップのメンバー発表は特別な瞬間だ。ワールドカップへ向けてのスタートのサインだ。素晴らしいエネルギーと最高のチームワークで戦ってほしい。そして苦しみに打ち勝つ力が必要だ。乗り越えなければならないものがたくさんある。だがドイツには優勝するチャンスがある」(元ドイツ代表監督で90年W杯優勝メンバーのユルゲン・クリンスマン)
「ワールドカップでプレーするのは特別なことだ。僕は3大会に参加することができるけどどれも特別な大会だった。時計の針を戻して、あの頃のことを喜んで思い出したりするよ」(14年W杯優勝メンバーでキャプテンのバスティアン・シュバインシュタイガー)
「それぞれの選手にはそれぞれのキャラクターがあるけど、エゴをみんなが振り払ってチームのために戦った。それが僕たちを前へと押し上げ、優勝へとたどり着くことができたんだ」(14年W杯優勝メンバーのサミ・ケディラ)
「1990年の代表チームは最初から素晴らしいハーモニーがあった。レギュラーメンバーだけではなく、関わる全ての人が一丸になったチームだった。まさにチームスピリットがそこにあった」(90年W杯優勝メンバーのルディ・フェラー)
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数多くの心からのメッセージにフリックは聞き入っていた。最後に登場したのが元代表監督ヨアヒム・レーブだった。14年W杯では監督とアシスタントコーチの関係でドイツに4度目の優勝をもたらした二人。盟友からのメッセージにフリックも思わず笑顔になる。
「やあ、ハンジ。特別に昔の74年ワールドカップのトレーニングジャージを自分のクローゼットから見つけ出してきたよ。希望の思いとともに、そして大会を勝ち進むうえで必要な幸運がもたらされるように。14年に僕らを強くしたことを思い出してほしい。素晴らしいチームだった。どんな時でも自分達の勝利を信じて疑わなかった。そして決して冷静さを見失わなかった。このクオリティがカギだった。トレーナーチームとともに上手くチームを導いてほしい。心から幸運を祈っているよ」
真剣にその言葉に耳を傾けていたフリックは広報からコメントを求められると少し呼吸を整えてから話し出した。緊張が少しほぐれたのだろうか。その声には先ほどまでよりも柔らかいものがあった。
「どのチームにとっても大事なメッセージなのだと思う。素晴らしい経験、成功を遂げた選手や監督からのメッセージだ。多くのことをもたらしてくれる。ありがとう。しっかりとチームに伝えるよ」
ドイツ代表は14日に中断前最後のブンデスリーガ日程を終えた後に直接カタールではなく、まずオマーンへ飛ぶ。17日までの短期キャンプだ。16日にはオマーン代表と最後の親善試合に臨む。オマーン戦までは到着後わずか1日しか時間がないので休養・調整プログラムが組まれることになっている。
「ドイツでの11月の天候はいつもいいわけではない。早めに入って天候、そして日々のリズムに慣れる必要がある。オマーンとの親善試合も大事だ。親善試合後(17日)すぐにカタールへ飛ぶ。過去大会と比べても、これまでの準備期間とは全く違う。カタールでも休養・調整プログラムを行うことにもなるだろう。試合4日前から準備をしていく予定だ。そこから日本戦にむけてフォーカスしていく」
決戦の時はもうすぐそこだ。果たしてフリックはどんな戦略で日本に向かってくるのだろうか。W杯優勝4回を誇るサッカー大国ドイツとの真っ向勝負へのカウントダウンは始まっている。
取材・文●中野吉之伴