年が変わっても、サッカーにオフはない。ワールドカップの熱が冷めないままに新年に入り、年明け早々にはJリーグのチームが始動する。日本代表の多数を占める海外組の選手たちは、シーズン真っただ中だ。2人の大ベテランのサッカージャーナリスト、大住良之と後藤健生もスイッチオンのまま、サッカーの来し方行く末を語り尽くす。

■2022年のサッカー界を振り返る

――サッカー界の2022年を振り返っていただきたいのですが、どうしてもワールドカップが先に立ちますよね。

大住「そうだねえ、1年の最後にああいうのがあるとねえ」

後藤「記憶が上書きされちゃって、その前のことは何も覚えていないよ(笑)」

大住「そうなっちゃうよね。ワールドカップ以外の日本代表の試合のことは、もうどうでもよくなっちゃったしな(笑)」

後藤「最終予選のオーストラリア戦は何だったんだ、という感じだよね」

大住「三笘薫のあの2ゴールも、大昔の出来事だよね」

――現地取材されたそのワールドカップの中でも、特に印象的なシーンはありますか。

大住「一番印象的だったのは、PK戦が“う~ん”という感じになったことだったね。2010年の南アフリカ大会も最後はPK戦で、駒野友一が失敗してしまったけれど、他の選手は成功しているんだよね。今回のワールドカップでは、PK戦がいくつかあったけど、負けたチームは執念が足りなかった感じがするよね」

後藤「ブラジルもいきなり2人外してしまったし、PK戦が大差になったという感じはあるよね」

大住「片方はすごく真剣で、もう片方は運だから、みたいな感じでやっていたよね。もったいないよね」

■PK戦への新たな取り組み

後藤「PK戦はつまらないことで、あんなことに力を入れるのはばかげたことだと思うけど、そんなばかげたことで戦える試合が1つ減っちゃうのは本当にもったいない」

大住「そうだよね、もったいと思うないよね」

後藤「勝てていたら、ブラジルと試合できたんだもんね」

大住「そう、ブラジルとPK戦ができたかもしれないよね(笑)」

後藤「こてんぱんにやられるかもしれないけど、ワールドカップの準々決勝でブラジルと対戦できるというのは夢のようなことだからね」

大住「そうだよね。だからなんというのかな、PK戦の準備もして、やることはやったというならいいんだけど、そうじゃなかったのがちょっと…」

後藤「PK戦になる前に負けたのなら仕方ないけどね。12月にU-18日本代表が出場したIBARAKI Next Generation Cupという大会では、勝負がついた試合でもPK戦をやるという新方式を試していた。U-18日本代表の冨樫剛一監督は1年を振り返るオンライン取材で、その大会の3度のPK戦では、いろいろと蹴り方を工夫したと言っていたよ。U-20代表は2023年、U20アジアカップがある。準々決勝がPK戦になったとしたら、世界大会に出られるかどうかが懸かったすごく大事なPK戦になる。だから、ちゃんと準備をしておかないと困ることになるよね」

■冷めなかったサッカー熱

――後藤さんのワールドカップで一番印象に残った場面は何ですか。

後藤「やはりドイツ戦かなあ。今年のドイツはたいしたことがないから勝てるよと言ってはいたけれど、始まってみたら前からプレスをかけてもかわされるし、日本はもっとできると思っていたけど、前半を見た時点ではこれほど差があるのか、と思ったよ」

――でも、その劣勢から始まったワールドカップで日本代表が躍進したおかげで、年末までサッカー熱が冷めませんでした。

大住「僕は決勝までカタールで取材していたので分からなかったけど、日本代表が負けた後も国内の熱は続いていたのかな」

後藤「僕はラウンド16が終わってから帰国したけど、帰ってきた時には日本代表の試合は過去の話になっていた感じだった。でも、決勝は見た人が多かったようだったし、さらに決勝が終わってからも、フランスの表情だとか、アルゼンチンではブエノスアイレスで代表チームがすごい歓迎を受けているとか、ニュースのたびに決勝を戦った両国の様子が映されていた。こんなにやるのか、日本が負けた後でもワールドカップを追ってくれるんだ、と思ったね」

大住「決勝がああいう試合になったから、というのもあるよね。アルゼンチンが2点リードしたまま終わっていたら、どうなったか分からない」

後藤「決勝のテレビ視聴率も、15%くらいだったらしいよ。日本の試合が終わってからもワールドカップを多くの人が見てくれたし、サッカーの面白さがよく分かる決勝になって良かったよ。日本代表で盛り上がったおかげだね」

大住「うまくつながったよね」

■アルゼンチンの優勝を見たかった…

――後藤さんはアルゼンチンがお好きなので、優勝はうれしかったのではないですか。

後藤「まあね。でも、せっかくアルゼンチンが優勝するのを現地で見られなかったのが残念」

大住「僕はアルゼンチンの優勝を1978年、1986年、そして今回と、3回とも見たよ。今回は決勝まではフランスの方が良いんじゃないかと思ったけど、アルゼンチンの闘志たるや本当にすごかったね」

後藤「あの国はすごいよね。ブラジル大会でも負けはしたものの決勝でドイツに必死に食らいついたしさ」

大住「ブラジル大会でも、決勝までは内容のない試合をやっていたけど、決勝ではとても内容のある試合をやったんだよね」

後藤「あの時もアルゼンチンの選手が2人でシュートブロックに飛び込んでいく場面が何度も見られて、話題になったよね。ああいう守備の文化はすごいよ」

大住「リオネル・メッシも、決勝ではそれまでと全然違ったよ」

後藤「あのメッシが一生懸命、守備しているんだもんね」

大住「だって、メッシがどこにいるか分からないんだもん。それまでの試合では、歩いている選手がいたら、それがメッシだと分かったんだけど」

後藤「背格好が似ている選手が多いからね」

大住「しかも背番号が見にくくてさ。でも決勝では、これはメッシかなと思ったら違う選手だということが随分あった。そのくらいメッシは走っていたね」

後藤「滅私奉公というわけだよ(笑)」

大住「ははは(笑)。後藤さんが言ってくれてよかったよ」