今週末、ついに開幕を迎えるサッカーの祭典。これから約一か月に渡って熱戦の日々が続くわけだが、大会の成功に欠かせないのが開催国の勇姿だろう。彼らの結果次第で、大会の盛り上がりが変わってくる。

 そんな責任を背負って今大会のピッチに立つのが、開催国のカタールだ。彼らは、20日(日)の開幕戦でエクアドルと相まみえるのだが、その試合では“開催国の不敗神話”を守るという責任まで背負うことになる。

 今回で22回目を迎えるワールドカップだが、これまで開催国は一度たりとも初戦に負けたことがないのだ! 2002年日韓大会の共催国を含め、これまで開催国としてワールドカップに出場したのは全部で22チーム。その全てのチームが、初戦では負けていないのである。

 それでは、大会の盛り上がりに欠かせない「歴代開催国の勇姿」を振り返ろう。

[写真]=Getty Images

■開催国は初戦で無敗

 1930年の第1回大会から前回の2018年大会まで、開催国の初戦を見てみると、確かに彼らは一度も負けていないのだ。共催を含めて計22チームがホスト国として大会に臨み、初戦の結果は「16勝6分け0敗」。初戦で抜群の強さを誇っているのだ。

 2002年の日韓大会では、韓国がFWファン・ソンホンとFWユ・サンチョルのゴールでポーランドを2-0で退けて白星発進した。一方で日本は、ベルギーを相手に先制ゴールを許すも、鈴木隆行と稲本潤一のゴールで逆転に成功。その後、追いつかれるも2-2で引き分けて、ワールドカップでの記念すべき初ポイントを獲得した。

日本代表

 歴代の開催国の中には初戦でゴールショーを披露したチームもある。第2回の1934年大会では、開催国イタリアが初陣でアメリカに7-1で大勝すると、勢いそのまま勝ち上がっていき、決勝でチェコスロバキアを退けて初の栄冠を手にした。サッカー王国ブラジルも1950年の母国開催で抜群の強さを発揮した。セレソンは、一次グループステージの初戦でメキシコを4-0で圧倒すると、決勝グループに入ってもスウェーデンを7-1、スペインを6-1で下して初優勝を遂げるかに思われた。しかし、最終戦でウルグアイにまさかの敗戦を喫して優勝を譲ることに。いわゆる“マラカナンの悲劇”である。

 記憶に新しい前回大会は、出場32チームの中で最もFIFAランクの低い開催国ロシアが躍動した。FIFAランク65位のロシアは、初戦で2番目に低いサウジアラビア(63位)と対戦すると、デニス・チェリシェフの2得点などで5-0と快勝。それで勢いづいたロシアは見事にグループステージを突破すると、ベスト16ではPK戦の末にスペインを下し、ベスト8という好成績を残したのだ。彼らの躍進は、W杯で初めて導入されたVARの判定に助けられた部分もあり、一部のファンから「VARは“ウラジーミル(プーチン)・アシスタント・レフェリー”の略だ」という皮肉も聞かれた…。

 一方、初戦で勝ち切れなかったのが、母国開催で初優勝を目指していた1966年のイングランドだ。完全に引いて守るウルグアイの牙城を最後まで崩せずにゴールレスドロー。第8回大会にして、初めて開催国が初戦に勝てなかった瞬間だ! それでもイングランドは、無事にグループステージを突破すると、最終的には頂点に立っていた。

 開催国の不敗神話が最も危ぶまれたのは、2010年の南アフリカ大会だろう。当時、南アフリカはFIFAランク83位で、北朝鮮(105位)に次いで出場国の中で2番目に低かった。彼らの初戦の相手は中米の強豪メキシコ(FIFAランク17位)。試合はやはりメキシコがボールを支配する展開となった。それでも、なかなかチャンスを仕留めきれずに後半に入ると、ブブゼラが鳴り響く中、南アフリカが巧みなパスワークでカウンター攻撃を仕掛けた。そしてDFラインの背後に抜け出したシフィウェ・チャバララが左足を振りぬいて先制ゴールをマーク。1点をリードした南アフリカは、79分にメキシコのラファエル・マルケスに同点ゴールを許すも、そのまま1-1でドロー決着。こうして“開催国の不敗神話”は無事に守られた。

■開催国のベスト8進出率は「82%」

カタールW杯

 開催国は初戦に負けないだけではない。“ほぼ”間違いなく好成績を残しているのだ。これまで開催国22チームのうち、実に18チームがベスト8以上の成績を収めているのだ! そのうち13チームがベスト4に進出し、6チーム(ウルグアイ、イタリア、イングランド、西ドイツ、アルゼンチン、フランス)が頂点に上り詰めている。ベスト8進出の確率は驚異の「82%」。そして優勝確率でさえ「27%」もあるのだ。

 ベスト8に進めなかった4チームというのは、1982年のスペイン(二次ラウンド敗退(実質12強))、1994年のアメリカ(16強)、2002年の日本(16強)、そして2010年の南アフリカ(グループステージ敗退)。そう考えると、開催国がグループステージで敗退したのはこれまで南アフリカの1回しかないのだ!

■開催国カタール

カタール代表

 というわけで、今大会の開催国であるカタールには様々なプレッシャーがかかることになる。そもそも、開催国としてワールドカップに初出場するのは第3回以降で初めてのことなのだ。そして、もし20日(日)の開幕戦でエクアドルに敗れることがあれば、ワールドカップ史上初めて初戦を落とした開催国となってしまうのだ。

 だが、そうはならないために彼らは綿密な準備をしている。近年、カタールは積極的に国際試合を組んで経験を積んでいるのだ。2019年のアジアカップ決勝で日本を下して初めてアジアの頂点に立った彼らは、同年6月には日本と共にコパアメリカにゲスト出場。昨年の夏には北中米カリブ海No.1を決めるCONCACAFゴールカップにもゲスト出場してベスト4まで勝ち上がった。さらにワールドカップ予選では、ヨーロッパ予選のA組(セルビア、ポルトガル、アイルランド、ルクセンブルク、アゼルバイジャン)に入る形で、親善試合を行ってきた。

 そして今年6月から約5か月間、カタール代表の選手たちはクラブチームの試合には出場せず、代表チームとして活動してきた。スペイン合宿やオーストリア遠征を行い、代表チームだけでなくマジョルカやラツィオといった欧州のクラブチームとも練習試合を行ってきた。2002年大会でベスト4に入った韓国代表を彷彿させる強化方針である。当時の韓国代表の選手たちは、年明けからクラブチームの試合に参加せずに代表チームとして活動し、6月の本大会で大躍進を遂げたのだ。

 今回、カタールはA組。エクアドルのほか、強豪オランダとアフリカ王者のセネガルも同居しており、地の利があるとはいえカタールが勝ち上がるのは難しいように思う。それでも、もしカタールが初戦でエクアドルに負けずに「開催国の不敗神話」を守れたなら、そこから勢いに乗る可能性もゼロではない。

 というわけで、開催国の不敗神話の行方が気になる20日(日)の開幕戦に注目したい。

(記事/Footmedia)