いよいよ開幕が迫るカタール・ワールドカップ。森保一監督が率いる日本代表は、いかなる戦いを見せるか。ベスト8以上を目ざすサムライブルー、26の肖像。今回はFW前田大然(セルティック)だ。

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「(9月のアメリカ戦は)自分というよりチームが機能していた。チームあっての僕だと思う。プレスのところは相手もスピードで来られたら嫌だろうし、そこは自分の良さだと思います」

 カタール・ワールドカップ前最後の国際Aマッチデーだった9月の欧州遠征。前田大然は主力組が並んだアメリカ戦で先発。「鬼プレス」と称される前線からの猛烈なチェイシングで敵を脅威を与え、日本のプレスのスイッチ役として存在感を発揮した。同時に、11月23日の初戦・ドイツ戦のスタメンに名乗りを上げたのだ。

 2016年に当時J2の松本山雅でプロキャリアをスタート。その時の指揮官でもある反町康治技術委員長も「大然のようなスピード系のタイプは、スプリントを繰り返すと速度が落ちたり、歩く時間が長くなったりするが、彼はそれを維持できる。山雅時代にやっていたことが活きているのは嬉しく思う」と素直に喜んだ。
 
 後発のプロヴィンチャのクラブからカタールW杯の1トップが出現するかもしれないとは、恩師を含めて想像した者は少なかっただろう。

 山梨学院高時代に1年間、サッカー部から離れるという苦しい出来事に直面しながら、爆発的なスピードと推進力でプロ入りのチャンスを掴んだ前田。森保一監督も傑出した武器を持つ坊主頭の韋駄天に早い段階から注目。2017年からU-21代表に招集していた。

 だが、森保ジャパンが発足した2018年9月時点の前田は、アジア大会で負った怪我で離脱中。堂安律(フライブルク)や冨安健洋(アーセナル)ら東京五輪世代の面々が続々とA代表デビューしていくなか、前田が表舞台に出るまでには少し時間を要した。

 大きな転機となったのは、2019年のコパ・アメリカ。グループステージ突破のかかったエクアドル戦で決定機を逃し、「このままじゃ、東京五輪に出たとしても活躍できない」と失望感を露にした。

 直後に決断したマリティモへのレンタル移籍も、世界基準を追い求めるため。同時期に長女・爽世ちゃんが生まれたばかりだったが、家族とともに大西洋の離島・マディラ島へ赴き、ガムシャラにチャレンジし続けた。
 
 翌2020年。コロナ禍を日本人がほとんどいない異国で経験した前田は、家族の安全を考え、欧州挑戦をいったん断念。夏に横浜F・マリノスへの再レンタルに踏み切る。そこでアンジェ・ポステコグルー監督と出会ったことで人生が一変する。

 同年の後半戦は3点にとどまったものの、2021年には多彩なパターンからゴールを量産。レアンドロ・ダミアン(川崎フロンターレ)と並ぶJ1年間23ゴールを叩き出し、得点王に輝く。

 劇的な飛躍を目の当たりにした反町委員長も「大然はシュートが上手くなった。マリノスでは欲しいところにボールが来るのが大きい」と驚き半分にコメントしていたほどだった。

 同年には念願だった東京五輪にも参戦したが、森保監督から主に与えられたのは、左サイドのジョーカー的な役割。本人は「前で勝負したい」と言い続けたが、思いは届かない。

 2021年11月の最終予選・ベトナム&オマーンの2連戦からA代表に呼ばれるようになっても、状況はなかなか変わらなかった。
 
 その起用法に変化が生じたのが2022年。前田が2度目の欧州挑戦となるセルティック移籍に踏み切り、ゴールを量産するようになってからだ。欧州リーグでも強度と速さが通用するとなれば、もはや指揮官に迷いはない。大迫勇也(神戸)や浅野拓磨(ボーフム)の負傷離脱もあり、前田の序列は一気に上昇。FW一番手の最有力候補に浮上したのである。

 そこで「鬼プレス」のみならず、ゴールという結果を残してくれれば最高のシナリオ。J2から這い上がった男の雑草魂をカタールで見せつけてほしい。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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