W杯前最後のテストマッチだった11月17日のカナダ戦で、個人的に最も注目していたのが柴崎岳だった。森保一監督がスタメンを明言していた1人だ。
アジア最終予選の途中でスタメンから外され、その後に何度かもらったプレータイムでも精彩を欠く。W杯メンバーへの選出は物議を醸し、個人的にも「最近の柴崎岳」を残念に思っていた。持っている能力の一欠片しか見せていなかったからだ。
「自分なりの個性を活かしてチームに貢献したい」
カナダ戦の前日、柴崎はそう語っていた。そして実際、言葉通りの素晴らしいパフォーマンスだった。4年前のロシアW杯と比べればまだまだの印象だが、攻守で持ち味を出していたのだ。
積極的にボールを要求してビルドアップの起点となり、サイドチェンジの縦方向のパスで局面をひっくり返す。そして、伝家の宝刀スルーパスも冴え渡った。8分には絶妙な浮き球で、相馬勇紀の先制点をアシスト。89分に山根視来に通した鋭いグラウンダーのパスも、実に柴崎らしい代物だった。
さらに、守備でもしっかり貢献した。素早いトランジションからハードな寄せを見せる。プロ仕様のデータソフト『wyscout』によれば、守備デュエルはチャレンジ10回、勝利は7回で、いずれもチームトップのスタッツだ。ペナルティーエリア内でクリアした64分のカバーリングも見事だった。
時間と共にチームが間延びして柴崎もやや苦しむシーンが増えていったものの、総合的に見れば十分に合格点のパフォーマンス。パスセンスを利して試合をコントロールして決定機も作り、ディフェンスでもしっかり働く——。「この柴崎岳」が見たかったし、今の状態であればW杯メンバー選出にも異論はまったくない。
試合後に柴崎は、「自分に求められていることは、試合を作ったり得点を生み出したりすること。今日の試合はポジティブでもネガティブでもない。思ったりより良くもなかったし、思ったより悪くもなかった。これから客観的に分析して、W杯に繋げていきたい」と冷静に振り返ったが、手応えは掴んでいるはずだ。
難易度の高いグループに組み込まれた今大会の日本代表は、森保監督が明言している通りまさに総力戦。とくにボランチは主力の遠藤航と守田英正がコンディションに不安を抱え(ともにカナダ戦を欠場)、田中碧、本来はトップ下だがカナダ戦は一列後ろで試された鎌田大地、そして柴崎の5人でプレータイムを分け合っていく可能性が高い。
だからこそ、柴崎がカナダ戦で復調を印象付けた意味は極めて大きい。ボールを握る展開になりそうなコスタリカ戦は先発がありえるし、ドイツ戦やスペイン戦でも伝家の宝刀が必要になる場面は必ずやあるはずだ。
思えばロシアW杯でも、大会直前のパラグアイ戦で躍動が本大会のレギュラー起用に繋がって大活躍。その4年前に続いてカタールW杯でも、最後の最後に背番号7はいよいよ調子を上げてきた。遠藤と守田の状態次第では、中盤のキーマンとなっても何ら不思議はない。
取材・文●白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)
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