現代サッカーを語るうえで、フォーメーションやシステム論議は欠かせないものだが、それを成立させているのは選手のプレースタイルだ。どれだけシステムを語っても、それを実現するプレーが追いついてなければ話にならないし、逆に相手のシステム戦術を切り刻むようなプレーが出れば一気に試合を支配できるかもしれない。

今回はそんな選手の「ポジション別に見るプレースタイル」に焦点を当てて、その特徴を知ると同時に、そのプレーを体現している代表的なワールドクラスの選手をピックアップしてみよう。

【チャンスメーカー】

想定ポジション CF/RWG/OMF/RMF/LMF

膠着しているゲームの進行を一気に突き動かすプレーは、得点に繋がる重要な要素だ。絶え間なく動き、前線のどこにでも顔を出して相手を誘き出す“細かい動きの連続”でパスを貰うときもあれば、自らの動きで作ったスペースを突くラストパスを出す。

フリーになるための動き出しや、時には後方から一気にペナルティーに入り得点を狙うプレーが得意で、現代サッカーが最も求めるプレーを随所に発揮するのがチャンスメーカーだ。

チャンスメーカーと似たような言葉で「ゲームメイカー」というのがあるが、これは後方でのパスの配給によってゲームを組み立てる選手への呼称で、プレーの内容はまったく異なる。

チャンスメーカーの代表的な選手

リオネル・メッシ
アルゼンチンの至宝。ドリブルと細かい動きは超一級品で、ステップの妙だけで相手の最終ラインを切り刻む。

ケビン・デ・ブライネ
ベルギーの中心選手であり、マンチェスター・シティの主軸。圧倒的な技術を持ちながらも、献身的な第3の動きや、スペースを作る連続した走りと、汗をかくことを厭わない。そしてフィニッシュワークの精度の高さは群を抜いている。

鎌田大地
日本代表の中でチャンスメーカー的な役割を担うのが鎌田だ。前線の選手のイメージが強いが、下りてきたときの細かいボールさばきと、パスワーク、そしてフィニッシュに入る迫力と精度は所属クラブのフランクフルトでも一目置かれている。

【ウィングストライカー】

想定ポジション RWG/LWG

名称が表すとおり、ウィングの役割とストライカーの役割が合体されたプレーを得意とする選手に冠される名称。基本はサイドに開いた位置からでも、サイドプレーにはこだわらず、積極的に中へ切り込んでいき、中央での仕上げ(得点)にも関与する。相手DFから見た場合、非常に厄介で脅威となる選手が、ウィングストライカーだ。

ウィングストライカーの代表的な選手

ソン・フンミン
韓国代表のエースであり、トッテナムホットスパーの切り込み隊長。左サイドから右足でカットインしてゴールを狙うパターンはワールドクラスである。

ヴィニシウス
ブラジル代表の左サイドと、レアル・マドリーの左サイドを主舞台としている。弱冠22歳でありながらドリブル突破だけのスタイルからパスと中央への絡みを取り入れ、世界で代表的なウィングストライカーに変貌して一気に成長した。

伊東純也
日本が世界に誇る高速ドリブラー。右サイドを支配して得点の基盤となる崩しのプレーや、スルーパスに素早くして得点をもぎ取るプレースタイルは、ベルギーでもフランスでも十分に威力を発揮している。

【ボックス・トゥ・ボックス】

想定ポジション RMF/LMF/CMF/DMF

自陣(ペナルティ)ボックスから敵陣(ペナルティ)ボックスまで。つまりこの両ペナルティボックス間をプレーエリアとする、チームの勝敗に非常に大きなウェイトを占めるプレーヤーを指す。攻撃と守備の両局面に常に姿を現わし、圧倒的な運動量と、献身的な走力をもって攻守に亘って貢献するプレーヤー。ひと昔前は「ポリバレントな選手」とか「水を運ぶ人」などと呼ばれた。

ボックス・トゥ・ボックスの代表的な選手

エンゴロ・カンテ
世界で最も有名なボックス・トゥ・ボックスプレーヤー。決して高くない身長や身体サイズながら、圧倒的な運動量は全世界のフィールドプレーヤーが認める際立った存在。フランス優勝や、ミラクルレスターの陰のMVPと言われた。

フェデリコ・バルベルデ
守備・パワー・スピード・パス能力など、あらゆる能力が一級品でありながら、90分間フルにハードワークをこなす。チーム事情でSBに回るときもあるが、基本能力は万能MFだ。

守田英正
所属するスポルティングでは、前線の選手よりもシュート数が多い時も。ボールを奪ってそのまま前の選手を追い抜く動きも頻繁に繰り返す。試合中に守田の姿が見えない時間帯がほとんどないぐらい、重要なプレーには常に関与している、まさにボックス・トゥ・ボックスの典型のような選手である。

【アンカー】

想定ポジション DMF

クレバーさと、守備力、パスのスキル、そして戦況を把握する広い視野能力。守備においては、相手ボールが自陣の最終ラインに届く前にボールを刈り取る役割を担い、攻撃においては、最終ラインのビルドアップから参加して中盤と前線を繋ぐ。強いチームには常に優秀なアンカーが存在しており、いわゆる「玄人好み」のポジションとプレーがアンカーの特徴である。

アンカーの代表的な選手

カゼミーロ
長らくブラジル代表とレアル・マドリーが最強時代を築けたのは、カゼミーロがいたからだと言っても過言ではない。相手の繰り広げる多彩な攻撃を最終ライン前で食い止め、確実に味方の選手にボールを配給する姿は、アンカーのお手本と言っていいだろう。

ファビーニョ
リヴァプールがゲーゲン・プレスで欧州制覇を成し遂げたときの陰の立役者がファビーニョだ。ブラジル代表でも「いぶし銀」の存在感を放ち、後方でオールマイティなポジションをこなす。相手FWから見た場合、ファビーニョは本当に面倒な存在だろう。

遠藤航
ブンデスリーガ2年連続デュアル王」が全てを物語っている。決して恵まれた身体ではないものの、その体幹の強さと、ボールコースへの読み、危機察知能力の高さで、確実にヨーロッパに「アンカー・遠藤」のブランドを定着させている。

【インナーラップサイドバック(偽サイドバック)】

想定ポジション RSB/LSB

「攻撃参加=オーバーラップ」という構図はひと昔前のもので、今ではその変形?として「インナーラップ」が大きなトレンドだ。グラディオーラで有名になった「5ライン」のハーフサイドを主戦場に、前線の選手を内側から追い抜き、攻撃参加していく。追い抜く位置が中になることで、よりパスコースが活発化されるので、特に「1点」を獲りにいくときの「総攻撃モード」では非常に出現するプレースタイルだ。

インナーラップの代表的な選手

アンドリュー・ロバートソン
リヴァプールの万能選手のロバートソンが得意とするのがインナーラップだ。自陣からビルドアップし、ボールがサイドに流れて「タメ」ができた瞬間に絶妙のタイミングで走り込むプレーは、チームの攻撃パターンを一気に倍増させる。

ジョアン・カンセロ
バレンシア、インテル、ユベントスと名門を渡り歩き、マンチェスター・シティのレギュラーをがっちりと掴み獲った。グラディオーラの5ラインの申し子として、その安定したプレーは成熟の域に差し掛かっている。

山根視来
川崎フロンターレ時代からインナーラップを得意としており、俗にいう「スルスルとあがる」タイプで、いつの間にか危険なスペースに走り込んでいくプレーが得意。W杯アジア予選で、彼のインナーラップから得点が生まれたシーンも記憶に新しい。

【攻撃的サイドバック】

想定ポジション RSB/LSB

ある意味「現代サッカーの必需品」とも言われるぐらいのポジションとプレー。サイド攻撃の主戦となるのが攻撃的サイドバックだ。守備と攻撃の上下動を繰り返すのは当然として、攻撃の際には、高い技術とシュート力で、完全にFWと化すのが今の攻撃的サイドバックの基本スタイルである。

攻撃的サイドバックの代表的な選手

トレント・アレクサンダー=アーノルド
その存在感は守備の時間帯よりも攻撃の時に膨大に大きくなる。右足首の動きだけでクロスを入れるキック力と、相手の裏を取る走力で完全にリヴァプールの外せないピースとなった。

ジョルディ・アルバ
非常に完成されたサイドバックの印象。特別なドリブルの突破力を駆使するというより、スピード、パス、ドリブルの3つの要素を高い完成度でミックスさせて自陣から攻撃参加する。バルセロナで見せた「メッシ・ネイマール・スアレス」との絡みは完全に第4のFWとしてプレーしていた。

三笘薫
三笘がサイドバックか?という異論はあるかもしれないが、ベルギー・ユニオンで見せた後方からの高速ドリブルや、球足の長い持ち上がりは、SBとして機能していた。三笘の能力が最大限に発揮されるのは3-5-2の左サイドではないだろうか?

【守備的サイドバック】

想定ポジション RSB/LSB

守備的と攻撃的の差がどんどん縮まってはいるものの、「相手を完封する」というサイドバックの役割は、試合の結果を左右する重要ポイントだ。時にエースキラーとして、得意なサイド(右左)を入れ替えたりしてでも相手の攻撃を完全ストップさせ、守備からリズムを作り、自陣に安定をもたらす。今でもスカウティングの効果を最大限に発揮される役割である。

守備的サイドバックの代表的な選手

アーロン・ワンビサカ
対人能力において絶対的な強さを持つ。並いるサイドアタッカーを完封する姿は今や常態化しており、サイドの世界では間違いなく世界NO1のエースキラーだ。

フェルランド・メンディ
あのマルセロをベンチ・サブに追いやったアフリカ系身体能力抜群の強力サイドバック。180センチ・73キロの身体以上にピッチにいる姿は大きく感じられる。その強さが最も感じられるのは、特に相手FWにアタックしてサイドを支配したときだ。

冨安健洋
今や日本の冨安というより、アジアの冨安であり、さらに言えばプレミアリーグ首位チーム(アーセナル)の主軸サイドバック、「スーパートミー」である。サラーを完封し、スターリングを完封しても、もうサポーターは驚かない。それだけ冨安への信頼感が大きい証拠だ。

【ハードプレス】

想定ポジション CMF/DMF/CB

近代でも、古来でも、サッカーの醍醐味の一つが「格闘要素」であり「ボールの奪い合い」と「身体のぶつかり合い」であることに変わりはない。素早く高速のレベルでプレスをかけ、激しい当たりで相手のボールタッチの瞬間にボールを奪い取るプレーは、全てのサッカープレーの基本であり、それを最も得意とするプレーヤーは、最もリスペクトされる存在である。

ハードプレスの代表的な選手

アントニオ・リュディガー
前チェルシーの守護神、ドイツの要塞がリュディガーだ。190センチ・85キロの大型CB。ファーストコンタクトのハードさは、小柄なFWが吹っ飛ぶほどの荒々しさで、その瞬間を見ると思わず「笑って」しまうほどだ。

セルヒオ・ラモス
予測力、スピード、フィジカル、戦術眼。すべてを兼ね備えているが、セルヒオ・ラモスの代名詞はその激しいタックルで、リーガ史上最多退場記録を持つ。彼に目を付けられたFWは、そのタックルの嵐を浴びることになるだろう。

酒井宏樹
マルセイユ所属時でも、その身体能力は高く評価された。戦術眼や察知能力、そしてポジショニングで守備を行う日本人選手の中で、身体を使った守備能力は群を抜く。彼が入ったサイドで日本代表のディフェンスが崩壊したことは稀だ。