●イングランド代表がイラン代表に6発快勝

FIFAワールドカップカタール2022、グループB第1節イングランド代表対イラン代表が現地時間21日に行われ、イングランドが6-2で勝利している。6月以降の全6試合で未勝利と、決して調子が良いとは言えないイングランドが、なぜ6ゴールを奪って快勝することができたのだろうか。(文:安洋一郎)
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 試合前にイングランド代表が6ゴールも決めることを誰が想像できただろうか?

 「前線のタレントを見れば6ゴールはあり得るだろう」と感じる方もいるかもしれないが、直近のイングランド代表はかなり調子を落としていた。6月以降の6試合では強豪が相手だったとはいえ、3分3敗と未勝利が続き、その間の失点も10と急増していた。得点力不足にも悩まされており、この6試合で複数得点を決めたのは9月のドイツ代表戦しかなかった。

 国内リーグでの過密日程が考慮されたことでワールドカップ直前の親善試合も組まれず、決していいイメージとは言えない状況で今節に挑んだわけだが、前半と後半に3ゴールずつ奪ってうなど”アジアの雄”イランを圧倒した。後半に2点を返されるも6-2と実力を見せつけ、1966年大会の自国開催以来の優勝を目指すワールドカップで最高のスタートを切ることに成功している。

 なぜ、直近かなり調子を落としていたイングランド代表がワールドカップ本大会の初戦で結果を残すことができたのだろうか。

●奇妙な選択をしたイラン代表

 大前提としてこの試合のイラン代表が奇妙だったことを理解しなければならない。

 カルロス・ケイロス監督の下で3度目のワールドカップを戦っているイラン代表だが、「transfermarkt」によると同監督の下で戦った過去101試合で一度も5バック(3バック)のフォーメーションを採用したことがなかった。ケイロスがイラン代表から離れていた間も4バックで戦っており、このチームに全く染み付いていない戦い方でワールドカップの初戦に挑んだ。

 その上で絶対的な主力であるDFショジャー・ハリルザデー、DFホセイン・カナーニ、MFサイード・エザトラヒの3選手をスタメンから外したのだ。

 大一番で勝ちに来る場合は自分たちが最も得意なフォーメーションで、ベストのメンバーで臨むだろう。ところがケイロスはコンディションの不具合がなかったのにも関わらず、それを選択しなかった。その理由として考察できるのは、イングランド戦はドン引きでドロー狙い、そして残りのウェールズ戦、アメリカ合衆国戦でベストのメンバーで戦ってグループ通過を目指すというプランを持っていたということだ。

 今回のワールドカップは中3日と、これまでのワールドカップより詰まった日程となっており、ケイロス監督はより勝利の可能性の高い残りの2試合でベストを尽くすことを事前に考えていた可能性が高い。大量6失点での大敗と守護神アリレザ・ベイランバンドの負傷は想定外だろうが、イングランド代表に敗れることも視野に入れたマネジメントを行っていただろう。

●イングランド代表を優勝候補と断言できない理由とは

 先述した通り、イラン代表は実践で5バックを試したことがなく、急造のものだった。5バックは中盤と両SBが連動してプレスを掛けなければ、相手に押し込まれ続けられるのだが、急造のイラン代表はそれができなかった。3トップは辛うじてプレスをかけようとするも精度、強度ともに低く、逆に中盤に広大なスペースが生まれている。

 この中途半端な守備組織をイングランド代表の選手が見逃すはずがなく、先制点の場面ではハリー・マグワイアが中央のメイソン・マウントに縦パスを入れて、そこから大外を駆け上がってきた左SBのルーク・ショーに繋がり、最後は3列目からボックス内に上がってきたジュード・ベリンガムがショーのクロスを合わせてネットを揺らした。

 この見事な攻撃が生まれたのはフォーメーション変更も大きく影響しているだろう。ガレス・サウスゲート監督のチームは4バックと3バックを使い分けるチームなのだが、この試合では3バック時に右CBに入るカイル・ウォーカーが起用できなかったため、必然的に4バックとなっている。

 その結果、この試合でイングランド代表は4-3-3(守備時は4-2-3-1)のフォーメーションを採用した。中盤のベリンガムはかなり流動的で、攻撃時は先制点の場面のように積極的に前線に上がって数的優位な局面を作りだし、守備時はデクラン・ライスと同じ低いラインで多くのボールを回収した。結果的にこの4-3-3の採用がハマった形となり、現状のチームの最適解を見つけたと言えるかもしれない。

 チームのベストな形を見つけた上で、この試合で得点を決めたベリンガム、サカ、ラヒーム・スターリング、マーカス・ラッシュフォード、ジャック・グリーリッシュはいずれもワールドカップ初ゴールであり、自信を深めるには十分すぎる要素が初戦にして揃った。

 一方でイングランド代表には先述したイラン代表の状況に加え、イングランド代表はUEFAネーションズリーグで組織的なプレスを掛けてくるハンガリー代表やドイツ代表に苦戦をした過去がある。初戦に勝利したためグループ突破の可能性はかなり高いだろうが、この戦い方でのサンプルがこの試合以外にないため、優勝候補の一角に挙げるには判断材料が少なすぎる。手放しにイングランド代表を賞賛するには早すぎるだろう。

(文:安洋一郎)