【専門家の目|佐藤寿人】的確なマネジメントがドイツ戦の勝利につながる

 森保一監督率いる日本代表は現地時間11月23日、カタール・ワールドカップ(W杯)初戦のドイツ戦に臨み、2-1の逆転勝利を収めた。歴史的な勝利となったなか、元日本代表FW佐藤寿人氏に森保監督の采配と、指揮官の真髄について聞いた。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 ドイツ戦は立ち上がりこそ積極的な守備が効いていたものの、徐々に押し込まれてPKも与える苦しい展開だった。流れが大きく変わったのは、1点ビハインドの後半に森保監督が見せた大胆な采配だ。MF久保建英からDF冨安健洋に交代し、3バックに移行。直前の親善試合カナダ戦でも見せたシステムとはいえ、ハーフタイムでの変更に佐藤氏は「『早いな』と思いました」と率直な感想を明かし、準備段階からの的確なマネジメントを指摘する。

「本当に勝負に出ていった、勝負師としての森保監督だったと思います。その部分も含めてトータルで、カナダ戦があってよかったなと。3バックに変えるということ、浅野(拓磨)に実戦での試運転をさせるということ。カナダ戦は敗戦という結果は抜きにして、いろいろなものを得て初戦のドイツ戦を迎えることができた。守田(英正)と冨安(健洋)を先発起用できませんでしたが、そのなかでも板倉のコンディショニング、浅野の実戦というプラス材料を作れました。

 森保監督は最初から“総力戦”という言葉を使っていましたが、まさに誰が出てもやるべきことをしっかり体現する。最初から出る選手、途中から入る選手、試合を決める選手、そして試合を終わらせる選手。いろいろな役割があるなかで、初戦のマネジメントをされたと思います」

 佐藤氏はサンフレッチェ広島時代、森保監督のもとでプレーし、Jリーグ優勝も経験している。日本代表では批判にさらされることもありながらも、“本番”の1試合目で見事な結果を出した。その真髄はどこにあるのか。

「すごくリアリストな方だと思います。理想もあるとは思うんですが、目の前の試合でいかに結果を得るかというところ。広島で長くやって、その時のサッカーを一度離れて、外側から見て、良い部分とウィークポイントを知り得たなかで、広島での監督初年度から優勝を勝ち取っていますから。(ドイツ戦の采配は)勝つための最大値を取るための決断だったと思います。広島での3回目の優勝の時は、シーズンのほとんどで僕が60分前後で交代して拓磨が途中から入る形で、常に力を発揮できるような最大値を作っていました。

 そうした決断力は広島でも4年で3度のリーグ優勝をもたらしましたし、今回も早い時間帯で3バックに変えています。上から見ていて、ウォーミングアップで誰が体を作っているのか見ていたんですが、誰をどの時間帯で使っていくのか正直予想しづらかったんです。まさか冨安を入れて、すぐ3バックにするとは。あの決断をしてから、スムーズに前に行けていたところもありました」

 そして、後半12分にはFW前田大然を浅野に代えるだけでなく、左ウイングバックをDF長友佑都から攻撃的なMF三笘薫に交代。早い段階から前傾姿勢を明確にし、その後もMF堂安律、MF南野拓実と立て続けに投入して逆転勝利をもぎ取った。

「(三笘の投入は)勝負だと思います。もちろん本職でないので、バランスが崩れるとか、守備の立ち位置とか、絞り具合とかもありましたが、セカンドボールの回収であったり、寄せであったり、守備もしっかりとした対応をしていました。最終的には同点ゴールも途中から入った選手たちでチャンスを作った。まさに総力戦なんだなと見せてくれたシーンでした」

 5人の交代枠をフル活用し、起用された選手たちがそれぞれの役割を十二分に果たしたことで生まれた逆転勝利。佐藤氏は「このW杯を戦い抜くうえで、誰が出ても強度が落ちないで、やるべきことをしっかり体現できるという準備をしてきたと思います」と見る。指揮官の“勝負師”としての側面と、言葉だけではない“総力戦”によってもぎ取った勝利だった。(FOOTBALL ZONE編集部)