サッカー日本代表は現地時間23日、FIFAワールドカップカタール・グループE第1節でドイツ代表と対戦し、2-1で勝利した。歴史的勝利の過程には日本代表のシステム変更、ドイツ代表の失態など、実に多くの要素があった。そして、数的優位という前提条件を抜きに戦えることを証明した試合となった。(文:西部謙司)

●ドイツ代表の可変に苦しむサッカー日本代表

 デットマール・クラマーから教えをうけていたころ、日本代表がドイツ代表に勝利する日が来ると思っていた人はほとんどいなかっただろう。歴史的な勝利だった。

 前半の立ち上がりは日本代表の果敢なプレスがドイツ代表のミスを誘い、カウンターから前田大然がネットを揺らしたがオフサイド。しかし、これ以降はドイツの可変によるマークのズレを修正できず、イルカイ・ギュンドアンのPKで1点のビハインドで折り返す。

 ドイツは4-2-3-1システムとされていたが、ビルドアップの段階で3バックとなり、左SBのダヴィド・ラウムが高い位置へ張り出す。同時に左サイドハーフのジャマル・ムシアラが中央へ入ってくる。このドイツ代表の可変は十分想定できるものだった。

 日本代表は伊東純也がポジションを下げ、酒井宏樹がラウムとムシアラの両方をにらみながらボランチと連係して守っていた。しかし、ドイツ代表のヨシュア・キミッヒ、イルカイ・ギュンドアン、ムシアラが中盤を制圧し、中央に日本代表の守備陣を圧縮させてから左でフリーになっているラウムへ展開して一気に攻勢をかけた。

 日本代表はペナルティーエリア内で防ぐのが精一杯となる。ロスタイムにカイ・ハフェルツがゴールしたがこれは明らかにオフサイド。この前半に2点目をとられずに踏ん張れたことが勝利につながった。とはいえ、前半のうちに守備の修正をかけなかったのは致命傷を負いかねない状況であり、1点ですんだのは幸運だったかもしれない。

●流れを変えたサッカー日本代表の一手

 後半から久保建英に代えて冨安健洋を投入、システムも3-4-2-1に変更し、ドイツ代表の配置とマッチアップするようにした。これで対応が明確になり、日本代表の持ち味が発揮できるようになった。

 前半は押し込まれてボール奪取地点が低すぎてカウンターも打てなかったが、後半はようやくビルドアップができるように。自陣でボールを失うことなく、ドイツ代表のプレスに引っかからなくなった。マッチアップを合わせさえすれば、現在の日本代表はドイツにも引けを取らない力があることを徐々に証明していく。

 前田を浅野拓磨に、左ウイングバックになった長友佑都を三笘薫に交代して攻撃のギアを入れ、さらに田中碧→堂安律で鎌田大地をボランチに下げる。この間、ドイツ代表はギュンドアンのポストに当たったシュートなど決定機を作るが、GK権田修一の3連続セーブもあって何とか切り抜けた。

 73分、日本のここまで最大のチャンスが訪れる。遠藤航から絶妙のロブがボックス内の伊東へ渡ってシュート、GKマヌエル・ノイアーが辛うじて防ぎ、こぼれ球をフリーの浅野が狙ったが枠へ収められず。

●ドイツ代表の大失態とサッカー日本代表の成長

 その2分後、酒井宏樹が足を痛めて南野拓実と交代。交代はアクシデントによるものだが、これで攻撃的な選手がずらりと並ぶ形となった。浅野、堂安、南野の前線にボランチの1人が鎌田、さらにウイングバックは三笘と伊東という総攻撃態勢である。この交代直後、三笘のカットインからポケット深く入った南野へ、南野のシュートはまたもノイアーに阻止されたが堂安が蹴り込んで同点とした。

 アタッカーばかりになったため守備のリスクはあったものの、83分に浅野の決勝ゴールが決まる。自陣深くのFKを板倉滉が大きく蹴ると、落下点には浅野がフリーになっていた。

 ドイツ代表守備陣はオフサイドをアピールしたが、中央の選手が残っていて浅野はオンサイド。慌てて追ってきたニコ・シュロッターベックを体で抑えながらポスト際まで運んだ浅野がニア上を豪快に打ち抜く。

 ドイツ代表にとっては信じられないようなミスだ。FKに対して中途半端にオフサイドトラップをかけてロングボールの落下点に入った浅野を取り逃がしたのは大失態といえる。

 インジュアリータイムを含めて残り時間15分を守り切った日本代表が逆転勝利を収めた。日本代表は強豪国には1対1では勝てないので、いかに数的優位を作るかが重要と、かつてよくいわれていた。

 しかし、このドイツ代表戦ではマッチアップをはっきりさせればドイツ代表を相手にしても互角に戦えている。個で負けるという前提ではなく、個で負けないという勝つために当たり前の条件を揃えることができたわけだ。チームとして優位性を出すところまでには至っていないが、そこまでの成長を実感できたゲームだった。

(文:西部謙司)

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