2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!
■1日に何試合取材可能か?
「毎日3試合は見ることができるじゃないか!」
このワールドカップの日程が発表されたとき、後藤さんは小躍りした。たしかに1日4試合あり、しかも会場同士はひとつの市内と言っていいほど近い。
しかし私は「1日1試合で十分」と思っていた。ひとつの試合をじっくり見て、考えるのが私のスタイルである。
…とかっこうをつけて言ってみたが、正直な話をすれば、私は1試合見るだけでぐったりと疲れきってしまうのだ。監督をしている女子チームの試合でさえそうだ。ワールドカップの試合を2試合、まして3試合など見る体力など、私にはない。
その考えは、「2日2試合まで取材できる」とFIFAが発表したときも変わらなかった。しかし実際にカード選び始めるとあれも見たいこれも見たいと思ってしまうのは、レストランのメニューを見たときと同じ心理だったかもしれない。かろうじて「日本の試合がある日は1試合」という原則を決め、残りの日は2試合ずつの申請を出した。
■ドイツ戦での最大の不可解
だが大会が近づくにつれ、「やはりこれは無理だ」と思うようになった。そこで「2試合は2日にいちど」と原則を決め、何試合かをキャンセルしたという次第である。後藤さんは「もったいない」というが、人にはそれぞれの生き方がある。70歳を過ぎて1日2試合を連続12日間などという無謀なことをするのは、世界でも後藤さんひとりだろう。
というわけで、きょうは山下良美さんの第4審判ぶりを断念し、あれやこれやとドイツ戦のことを考えている。森保一監督の好采配で、たしかに日本は後半大きく改善され、思い切りの良い攻撃も出るようになった。だが私がこの試合で最も不可解と感じたのは、後半のドイツの「落ち込みよう」である。
前半のドイツは、さすがに欧州のトップクラスらしく、すばやいパス交換で日本を振り回した。日本のプレスは試合開始直後こそ効果的だったが、ドイツの選手たちがいったんそれを見切り、すばやいパス交換で回避するようになると、あとは一方的なドイツペースとなった。
片方のサイドでのパス回しで日本のDFラインを引きつけると、タイミングよく逆に振ってペナルティーエリア内でフリーの選手をつくる。PKを生んだのは、まさにこうした相手に息をもつかせない「理詰め」でハイテンポなプレーだった。
■11月開催の影響
しかしドイツは後半はまったく別のチームのようになってしまった。パスが回らなくなり、崩しも大幅に減った。同じユニフォームを着ていても、まったく別のチームのようだった。森保監督がセンターバックをひとり増やし、サイドにスペースをつくらないようにしたこともあるだろう。しかしそれだけでは説明がつかないほど激しい落ち込みようだった。
初めての11月のワールドカップ。欧州のトップリーグのスターで占められた強豪国の選手たちは3か月ほどのリーグ戦や欧州チャンピオンズリーグなどをこなして「試合勘」があり、ハイテンポの試合ができる準備ができている。だが一方で、大会前にはほとんど調整ぐらいしかできなかったことで、そのリズムを持続する「チームのゲーム体力」のようなものが不足しているのではないか。
サッカーは常に相対的なもので、戦況が変わる要因が片方のチームの変化だけにあるわけではない。ドイツの極端な落ち込みように日本の変化が重なったことで、あれほど劇的な試合の変化が生じた。それが日本の逆転勝利につながるのである。
毎日2試合を見てきょうで9試合を見たことになる後藤さんは、ドイツの後半の「落ち込みよう」をどうとらえたのだろうか。