W杯日本代表初戦・ドイツ相手に2-1の逆転勝利! 日本中が歓喜に沸く

 日本代表のカタール・ワールドカップ(W杯)が開幕した。日本時間11月23日夜に行われた初戦のドイツ代表戦で、前半33分にPKから先制されながらも、後半30分に堂安律が同点弾を、同38分に浅野拓磨が逆転弾をドイツゴールに叩き込むと、W杯を4度制したドイツ相手に逆転勝利の大金星を挙げた。日本中が歓喜に包まれるなか、元日本代表GKとして4度のW杯出場経験を持つ楢﨑正剛氏が、日本代表の勝利を振り返った。(取材・文=藤井雅彦)

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 正直、驚きました。

 結果もさることながら、あれだけ攻撃的な選手を次々と送り込んで攻め込んでいく日本代表というのは、過去にあまり見た記憶がありません。

 サッカーは、オフェンスに優れたな選手を多くピッチに投入するチームが必ずしも攻撃的というわけではありません。相手との兼ね合いや展開に左右される部分も大きく、運の要素も必要になります。ただ1つ間違いなく言えるのは、日本がリスクを承知のうえで勇気を持って戦ったこと。それが実を結んだ会心の勝利です。

 前半はとても苦しかったと思います。ドイツのコンディション面やピーキングの問題を差し引いたとしても、あれだけ力のある選手が揃っているチームはやはり上手くて、強い。押し込まれる時間が長くなってピンチも多く、耐えることしかできない時間だったように見えました。内容だけを切り取れば、0-3くらいになっていても不思議ではない45分間でした。

 特に日本の右サイドはかなり狙われていた印象です。相手の左サイドバックが高い位置を取ってきましたが、ピッチ内で解決策を見つけられなかった。その不安材料を突かれて失点してしまう流れは少なからずダメージがあったと思います。形としては権田修一選手が与えたPKからの失点ですが、まずはチームとして作らせてはいけない形の失点でした。

 そのうえでGK目線から対応を振り返ると、権田選手には選択肢がありました。

 大きなエラーにならず傷が浅くて済むのは、シュートコースに入って飛び込まないプレーです。距離をある程度詰めてストップするだけでもプレッシャーはかけられる。接触プレーによるリスクもありません。

 ただ、実際の場面では、(ダビド・)ラウム選手がトラップした瞬間により高くチャレンジの意識を持ってプレーしました。どれだけ強く接触したのかは分かりませんし、あるいはファウルを誘われての接触だったのかもしれません。その点においては相手が一枚上でした。

 ゴールから遠ざかるようにボールを持った相手との距離を詰め過ぎない手段もありましたし、あるいは下がってゴールマウスに戻る選択肢もあった。それらの場合は味方の位置関係が重要で、ガラ空きになったゴールをカバーできる選手はいたのか、もしくはボールホルダーにプレッシャーをかけられる選手はいたのか。全てにおいて瞬間的な判断が求められるシーンでした。

 どのような形にしても失点しないのがベストなので、判断と動作については改めて検証すべきですが、GKの自責点にするのは少し厳しいかなと。それよりも、失点後も0-1のまま試合を推移させたことがとても重要で、日本が勝機を掴めた最大の要因です。

楢﨑氏が実際に意識していた試合のなかでのGKの役割とは

 僕自身も現役時代に意識していたことですが、失点しても崩れずにゲームを壊さないのも大きな仕事です。メンタル的に気落ちせず、平常心でプレーし続けられる選手が良いGKだと思います。

 ドイツ戦ではオフサイドの判定やポストに救われるシーンもあり、相手のシュート精度が足りなかったと言えばそこまでかもしれません。安全にディフレクティングするプレーを選んでいた印象もあり、技術面を突き詰めればキャッチで相手の攻撃を終わらせることができた場面もありました。

 でも、結果として0-1のまま後半の半ば過ぎまで時計の針を進め、権田選手自身もネガティブにならずにゴールを守っていました。慌ててリスクあるキャッチを選んでいれば、それが2失点目につながっていたかもしれません。もちろん安全なプレーがすべての場面で正解ではありませんが、権田選手は自信を持って選択し、迷いがなかったように感じます。

 GKは主に守備面で勝敗を分ける重要なタスクを担っていますが、ドイツ戦のように逆転への呼び水にもなれるポジションです。反対に言えば、追加点を決めきれなかったことがドイツにとってのすべてだったのでしょう。試合における2点目の行方が、両チームの明暗を大きく分けた一戦でした。

 もう1つゴールシーンを振り返ると、決勝点のシーンは(マヌエル・)ノイアー選手の能力を考えるとストップできた可能性もありました。至近距離から肩口を狙われたシュートへの反応はとても難しいですが、それでもノイアー選手のレベルならば正対して身体のどこかに当てるか、もしくは目を開けた状態で対応します。わずかながら隙を見せた気がしますし、ここしかないコースに決め切った浅野選手も素晴らしかった。

 この場面のドイツDFの対応が象徴するようにドイツに甘さが見え隠れしていたのは事実ですが、日本にとってはとてつもなく大きな1勝です。これ以上ない結果を手にして、日本全体の空気が一変しました。改めて日本代表が持っている影響力とW杯という舞台の大きさ、そして強豪国のドイツに勝利した価値を感じます。

 これで精神的にラクになったと思いますし、どの国と対戦しても気後れすることはないでしょう。手にした大きな自信とともに、第2戦以降も戦ってほしい。ドイツ戦のようにチャレンジャーの意識を忘れずに戦えば、さらに視界が開けていくはずです。(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)