【専門家の目|玉田圭司】W杯初戦で強豪ドイツ撃破、森保監督の大胆采配に至った背景に注目

 森保一監督率いる日本代表は、カタール・ワールドカップ(W杯)の初戦でドイツ代表と対戦し、2-1の逆転勝利で大金星を飾った。相手に圧倒的なボール支配を許し防戦一方となった前半から一転、4バックから3バックへのシステム変更を機に、流れは一変。直近の強化試合で短時間しか試さなかった3バックを導入した森保監督の大胆采配に至った背景について、W杯2大会連続出場経験を持つ元日本代表FW玉田圭司氏に見解を訊いた。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 強敵ドイツとの一戦で、日本は基本システムの4-2-3-1を採用。前半序盤こそ、ハイプレスからショートカウンターに転じる場面を見せ、立ち上がりの8分にMF鎌田大地が高い位置でボールを奪った流れからMF伊東純也に展開し、FW前田大然がネットを揺らす。これは惜しくもオフサイドの判定となったが、狙いとする形を見せた。しかし、徐々にボール支配をドイツに明け渡すと、防戦を強いられ前半33分、PKをMFイルカイ・ギュンドアンに決められ先制点を許す。

 前半45分間の日本の戦いぶりについて、玉田氏は「どうなってしまうんだろうと、不安しかなかったです」と回想。「ドイツもさすがの対応でしたね。日本のプレスを剥がしたり、上手くポジショニングを取って、コントロールしていました。日本にはボールの取りどころがなかった。パスをつなげず、無理にクリアせざるを得ない状況にさせられて2次、3次攻撃を受けるという悪い流れ。ドイツとしてはプランどおりの前半だった」と指摘する。

 この悪い流れを打開すべく、森保監督は後半頭からMF久保建英に代えてDF冨安健洋を投入して3バックに変更。これで相手のマークを明確にさせた日本の森保監督はMF三笘薫、FW浅野拓磨、MF南野拓実、MF堂安律と攻撃的な選手を次々と投入する大胆な策に打って出た。シュートやクロスでゴールへ迫るシーンが徐々に増加した展開を踏まえ、玉田氏は「ビルドアップに関してドイツの選手たちのほうが戸惑っていたように見えた。相手のディフェンス、プレスがかからなくなってきた」と、この采配がドイツの脅威を削ぐことにつながったと分析する。

 日本は後半30分、ゴール前に三笘がボールを持ったところからペナルティーエリア内で南野が受け、中央への折り返しをノイアーが弾いたところを堂安が蹴り込んで同点ゴール。さらに同38分、最終ラインから1本のロングパスを受けた浅野が逆転弾をマークした。「キーポイントは2点目を取られなかったこと。そして交代策」と、ドイツ相手の歴史的勝利を挙げたポイントを指摘した玉田氏。注目すべきは、森保監督の“大胆采配”だろう。

 本大会直前のテストマッチ・カナダ戦(1-2)でも3バックシステムを試していたとはいえ、実際にピッチ上でテストしたのは短時間のみ。玉田氏も「カナダ戦でも3バックは試しましたが正直、ないなと思った」という布陣への変更に加え、アタッカー陣を次々と投入した采配は驚きをもたらした。森保監督から、そうした積極采配がドイツとの大一番で見られた背景について、玉田氏は前半の試合内容が起因しているのではないかと見ている。

「ドイツにあそこまでこてんぱんにされると、3バックをせざるを得なかったのかもしれないです。策を打たないといけないし、同じシステム、選手を代えたとしても劇的な変化は望めない。そうなった時の選択肢として3バックという閃きがあったんじゃないかと」

 W杯優勝経験を持つドイツとの一戦で、歴史的な大金星をもたらした森保監督。日本サッカー史上初のベスト8入りへ、この先の戦いでもその手腕に注目が集まりそうだ。

[プロフィール]
玉田圭司(たまだ・けいじ)/1980年4月11日生まれ、千葉県出身。名門・習志野高校から99年に柏レイソルへ入団。プロ5年目で主力に定着し、2桁得点をマークした。2004年に日本代表へ初招集。名古屋グランパスへ移籍した06年にはドイツW杯へ出場し、第3戦ブラジル戦でゴールを決めた。10年南アフリカ大会でW杯2大会連続出場。国際Aマッチ通算72試合16得点を記録した。セレッソ大阪、V・ファーレン長崎にも所属し、Jリーグ通算511試合131得点した左利きのストライカー。21年に現役引退を引退した。(FOOTBALL ZONE編集部)