■ドイツ戦から比べると“天と地”の差の結果に

【FIFA ワールドカップ カタール 2022・グループE】日本0-1コスタリカ(日本時間11月27日/アフメド ビン アリ スタジアム)

 閉塞感が漂うピッチにおいて、左サイドの三笘薫の存在は光明となっていた。ワールドカップのグループリーグ第2戦、日本はコスタリカに0-1で敗れて、勝ち点を伸ばすことはできなかった。

 歴史的金星を挙げた初戦のドイツ戦から比べると天と地の差の結果になってしまったが、日本のワールドカップが終わったわけではない。決勝トーナメント進出の可能性が残っているだけに、この敗戦からの光明を見出すべきだろう。最大の光明、それこそが三笘であった。

 三笘は0-0で迎えた62分に山根視来と代わって投入された。3-4-2-1の左ウイングバックに入った彼に対し、コスタリカは右ウィングバックのフジェルがマンマーク気味に張り付き、さらに右CBのドゥアルテが常にケアをする形で“三笘封じ”を構築してきた。

 裏を返せば三笘が2人を引き付けてくれる分、周りが空く。三笘はドリブルよりもシンプルに周りを使うプレーを選択しつつ、良い状況でボールを持って仕掛けられる時が来るのを待った。

 だが、その間にチームは失点をしてしまった。81分、日本の左サイドでボールを持たれて、三笘の裏にボールを送り込まれると、これを伊藤洋輝が中にヘッドをしてしまい、落下地点に入った吉田麻也のパスを拾われ、失点してしまった。

■2度のチャンスを演出したドリブル

 精神的なダメージが大きかった失点だが、ここから三笘が巻き返すように輝いた。

 87分、左サイドでボールを受けると、寄せてきたフジェルに細かいダブルタッチで牽制を入れると、一度ボールをまたいでストップして相手の足を出させた。次の瞬間、「待ってました」と言わんばかりに右インフロントでボールを引っ掛けながら前に出して一気に加速。

 フジェルを置き去りにしてペナルティーエリア内右に侵入をすると、今度は右アウトサイドで中に加速。スライディングで飛び込んできたもう一枚のDFを読んでいたかのように、素早く中央の鎌田大地へマイナスの折り返しを入れた。しかし、鎌田のシュートは世界的GKナバスのビッグセーブに遭い、ゴールには至らなかった。

 アディショナルタイムに突入した92分には、左サイドでフジェルに対して今度は縦に行くと見せかけて内側へ重心移動して、鮮やかなダブルタッチで交わして置き去りにし、カバーに来たDFを縦にかわしてペナルティーエリア内に侵入。
 
 ビッグチャンスが生まれそうだったが、伊藤がコースを少し塞ぐ形となって中央のスペースが埋まってしまったことで、さらに中には持ち込めずにマイナスの折り返し。これは相手のDFに引っかかって、クリアされ万事休す。

 三笘らしさは見せたものの、日本を勝利に導くことはできなかった。

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■日本には“三笘薫”という強烈な武器がある

 試合後のミックスゾーン、三笘の表情は曇っていた。フジェルがマンマーク気味に来ていたことにおける対処法について聞くと、こう口を開いた。

「背後を狙ったりもしていましたが、芝がスリッピーな分、難しいところもありました。自分も最後のところはちょっと丁寧に行きたいと思いすぎて、足元(でボールを受けるプレー)になってしまったところもありました」

 三笘が言う通り、ピッチは大量の水が撒かれ、芝も長めでボールがよく走る。大きなタッチから加速することも得意とする彼にとって、ボールが流れてしまうことが気になった。さらにワイドで張ることで、フジェルの視野内でプレーすることが多くなってしまい、ファーストタッチで逆をとったり、スペースに潜り込めるような状況を作り出せなかった。

 そんな中でも2度のチャンスを演出したのだから、ポテンシャルの高さは特筆すべきものがある。日本が“三笘薫”と言うとてつもない強烈な武器を抱えていることを、改めて実証する試合でもあった。

 次のグループリーグ最終戦・スペイン戦は勝たなければ決勝トーナメント進出が厳しいという状況になってしまった。果敢にドリブルで勝負を仕掛け、短い時間でも決定的な仕事をする。三笘が三笘らしいプレーをできれば、奇跡は現実味を帯びる。

文/安藤隆人
写真/Getty Images