●スペイン代表のプレースタイルが固まったのは…
サッカー日本代表は、FIFAワールドカップカタール・グループE第3節でスペイン代表と対戦する。かつての優勝国でもあるスペイン代表は、いかにして現在のプレースタイルにたどり着いたのか。カタールW杯に出場する32カ国+αの「プレースタイル」に焦点を当てた好評発売中の『フットボール代表プレースタイル図鑑』より、スペイン代表の章「尖鋭性が玉に瑕の早すぎる先駆者」を一部抜粋し、前後編に分けて公開する。(文:西部謙司)
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2021年に開催された東京五輪、準決勝でU-23スペイン代表に敗れたあと、U-23日本代表の田中碧のコメントが注目された。
「彼らはサッカーを知っているけど、僕らは1対1をし続けている。そこが大きな差」
精密なパスとポジショニング、チームプレーでジワジワと圧迫していくプレーぶりは、まさにスペインらしいものだった。ただ、スペインがそうなったのは実はたかだかここ15年ほどなのだ。
スペインにおけるサッカーの歴史は古く、レアル・マドリーやバルセロナはヨーロッパの強豪として1950年代から有名だった。しかし、代表チームは64年のEURO優勝のほかにタイトルはなく、ワールドカップでも良くてベスト8という時期が長かった。
地域色の強い国でもあり、20世紀末のアンケートではワールドカップよりUEFAチャンピオンズリーグや国内リーグに関心が高いという結果も出ていた。プレースタイルもブラジルやイタリアのような確固としたものはなく、その時々の選手や監督によって変わっている。
1994年アメリカ大会で指揮を執ったハビエル・クレメンテ監督はバスク人で、フィジカルを重視したバスク色の強いチームを編成している。それ以前はブイトレ(ハゲワシ)のニックネームで知られたエミリオ・ブトラゲーニョをエースとした「キンタ・デル・ブイトレ」のレアル・マドリー勢を中心としたカウンター型のチームといった具合である。
現在のプレースタイルが固まったのは優勝したEURO2008からで、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガスのMF陣を中心としたパスワークは「ティキ・タカ」と呼ばれた。
ここからスペインの黄金時代が始まり、10年南アフリカ大会で初優勝、続くEUROも制して、8年もの間メジャータイトルを独占することとなった。
2008年はジョゼップ・グアルディオラ監督の率いるバルセロナが猛威を振るい始めた時期でもある。スペイン代表にも多くの選手を送り込んでいて、さながらリオネル・メッシのいないバルセロナという様相だった。的確なポジショニングによる正確なパスワークのサッカーは、1980年代の終わりにヨハン・クライフ監督がオランダ方式をバルセロナに持ち込んだことに端を発している。当初はスペインでも異色のスタイルだったが、やがて国内リーグ4連覇を達成する「ドリームチーム」のスタイルは全土に影響を及ぼし、08年にスペイン代表とバルセロナの躍進で大きく開花した。
クライフ監督のバルセロナからは30年が経過しているが、スペイン代表がそのスタイルを確立した2008年から現在までは約15年になる。そこまで歴史があるわけではなく、またスペインの伝統的なプレースタイルでもないのだ。
【後編】スペイン代表は変革期のリーダー。分裂状態、中堅国、そして世界一【代表プレースタイル図鑑】