●サッカー日本代表の朗報

サッカー日本代表は現地時間1日、FIFAワールドカップカタール2022グループE第3節でスペイン代表と対戦する。負傷者を抱える中、冨安健洋の復帰は朗報だ。世界最高峰の舞台で活躍する男は、窮地に陥ったチームに何をもたらすのだろうか。(取材・文:元川悦子【カタール】)
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 森保ジャパン4年3ヶ月の集大成となるスペイン戦が、いよいよ12月1日に迫った。史上初のベスト8という大目標を掲げる日本代表は、強豪を撃破して挑戦権をつかむのか。それとも、高い壁に阻まれてしまうのか…。吉田麻也も「日本サッカーの将来を左右する一戦」と語気を強めていただけに、まさに天下分け目の大一番と言っていい。

 緊張感が高まる中、酒井宏樹と遠藤航は前日練習にも冒頭から参加せず、欠場が決定的となった。ただ、朗報と言えるのは、冨安健洋の練習復帰だろう。

 ご存じの通り、彼は2021年11月の最終予選・オマーン代表戦以降、ケガを繰り返して代表から長期間、離脱を余儀なくされた。今年9月のアメリカ代表戦で10ヶ月ぶりに復帰したものの、アーセナルからの要請でエクアドル代表戦に出ることなく離脱。そして今回も本番直前に右足ハムストリングスの負傷を再発させた。

 17日のカナダ代表とのテストマッチも出場を回避して回復に努め、23日のドイツ代表戦は後半から出て歴史的勝利の原動力となったが、そこから再び別メニュー。状態が不安視され続けたまま、現在に至ったのである。

「ケガはもう大丈夫。問題ないです」

 11月30日の前日練習後、取材対応した冨安はキッパリとこう言った。

 前日に同い年の盟友・堂安律から「今まで休んでいたので仕事をしてほしい」と注文を付けられたのを受け、「律がそう言ってるんで働こうと思ってます」と冗談交じりに笑った。そういった立ち振る舞いを見ていると、精神的には悪くない状態にあるようだ。

●冨安健洋が描くイメージ「あくまで仮の話ですけど」

 スペイン代表は強敵だが、27日のコスタリカ代表戦とは違って「絶対に勝つ」という強気のマインドで挑めることはプラス要素だと彼は見る。

「コスタリカ戦は勝ち点1なのか3なのかが中途半端だったというか。勝てるクオリティーを持っているのに、勝ち点1でもいい状況だったこともあって、100%出し切れなかったなと僕は外から見て思っていました。でもスペイン代表戦はハッキリしてますし、僕たちの力を100%出し切りたい」と冨安は改めて必勝態勢でぶつかる覚悟だ。

 世界最高峰のリーグでプレーする188cmの長身DFに求められる役割はいくつかある。スペイン代表戦の基本布陣にもよるが、これまで通りの4バックで挑む場合、冨安は右サイドバック(SB)に入る可能性が高い。酒井宏樹が間に合わず、山根視来の守備強度にも不安があるため、長友佑都を右へ移動することも考えられた。が、ボローニャやアーセナルで右SB経験のある冨安なら安心感が高い。

 対峙するであろうジョルディ・アルバとダニ・オルモの左サイドの攻撃力は強烈だ。が、高度な戦術眼と駆け引き、1対1の強さを持ち合わせる彼なら守備面はかなり計算できるのだ。

「僕が右SBで出ると仮定するのであれば、ここ2試合はオルモ選手が出て、よりコンビネーションを使っていた。僕らは行くところと行かないところをハッキリして、奪ったボールをいかにマイボールにできるかが大事になってくる。右ウイングで誰が出るか分かんないですけど、後ろからしっかりサポートして前が生きるようにプレーができればいい。あくまで仮の話ですけど」

 本人は慎重な物言いを見せたが、守り切るイメージは出来上がっているはず。それをピッチ上で実践するところから全てが始まる。

●最終ラインは何人?「やるべきことはハッキリしている」

 日本代表の布陣が3バック(5バック)になることも十分考えられる。スペイン代表にボールを回された時、割り切って自陣に人数を厚くしてブロックを作る形もあり得る。そうなった時も冨安がいれば3バックは強固になる。すでにその形は23日のドイツ代表戦で実証済み。これもまた安心材料の1つと言える。

「システムは何でやるか分かんないです。(最終ラインは)3なのか、4なのか、5なのか、6かもしれない(笑)。システムに応じてやるべきことは選手の中でハッキリしているので、しっかりと練習で取り組んだことをピッチ上で発揮できればいい」と本人は頭をクリアにして戦うつもりだ。

 守備のタスクのみならず、冨安には得点力という武器もある。日本代表はセットプレーの攻撃が決まらず、苦戦しているが、彼が入ることで前線のターゲットが1枚増え、敵をかく乱する材料が多くなる。

 しかも、2019年アジアカップ準々決勝のサウジアラビア代表戦で決めた決勝戦のように、背番号16には一発がある。その強みをここで発揮してくれれば、日本代表はさらに勝ち点3に近づくことになる。

●外から見て感じた悔しさ

「こういう大会はシビアな戦いになるので、セットプレーはカギになってくる。CKが1本しかないかもしれないので、1本目から100%で飛び込む、信じることを大事にしてやりたいなと。仮に5本あるとしても全部、同じパワーと信じる力を持って入れればいいかなと思います」と冨安も得点意欲を強く示す考えだ。そうやって攻守両面で存在感を発揮してくれれば、日本代表の勝利、グループ突破は必ず現実になる。そう信じてやっていくしかない。

 思い起こすこと1年4カ月前の東京五輪。準決勝・スペイン代表戦に冨安は不在だった。イエローカード累積で出場停止だったからだ。延長の末、マルコ・アセンシオの一撃に沈んだチームの助けられず、彼は苦渋の表情を浮かべたに違いない。そのリベンジという意味も含め、今回のスペイン代表戦には特別な意識が抱いていたはず。その感情や思いの全てをピッチにぶつけ、最良の結果を手にするのみだ。

「(東京五輪の時は)外から見ている方が悔しい部分もあった。僕だけじゃなくて五輪世代はスペインに対しての気持ちをより一層持っている選手たちが多い。リベンジをしっかりと果たすことができればいいかなと思ってます」

 その言葉通り、宿敵・スペイン代表から勝ち点3を手にできれば、日本サッカー界の非常に大きな一歩となる。若い世代のDFの筆頭と位置づけられる冨安には闘争心をむき出しにし、チームを力強くけん引してほしいものである。

(取材・文:元川悦子【カタール】)

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