日本代表はカタールW杯で確実に大きな爪痕を残した。優勝経験のあるドイツ代表とスペイン代表に逆転勝ちして「死の組」を首位通過し、ラウンド16でも前回準優勝のクロアチア代表を相手にしてもPK戦の接戦まで持ち込んだ。
 
 その最大の原動力となったのは、間違いなくディフェンス力だ。最も仕様頻度が高かった3-4-2-1システムは、守備時に5-4-1に可変してリトリートでブロックを形成。多少崩されてもDF陣が身体を投げ出して防いだ。長友佑都は「引いて守る戦い方は通用した」、田中碧は「あのやり方なら世界を相手にしても守れることが分かった」と語っている。
 
 一方で、オフェンス面には多くの課題が残った。今大会の全5ゴールの内訳は、ロングボールからが2点で、ポゼッションから、ショートカウンターから、セットプレーからがそれぞれ1点だった。実質5バックの守備重視のシステムにしていた関係もあるが、それは「強豪国を相手に主導権を握るのが難しい」と森保一監督が判断したゆえだ。
 

 日本サッカーが目指す「ポゼッションで主導権を握って崩し切るサッカー」は、実はほとんど通用していなかった。実際、コスタリカ戦とクロアチア戦は比較的ボールを握る展開になったが、攻撃はむしろ停滞。その点について例えば長友は、クロアチアに敗れた翌日に次のように語っていた。
 
「そこが日本サッカーのこれからの大きな課題です。カウンター攻撃のベースはできてきたが、今後トップを目指す上では引いた相手をどう崩していくか。冷静に考えてドイツとスペインには勝ったが、彼らを相手にボールを握って圧倒的に勝つ力はまだ日本にはありません。そこは認めないといけない。日本はまだ世界のトップレベルではないです。今の日本サッカーの限界。とくに攻撃面ではやるべきことが多い」
 
 他の選手たちも長友の意見に同調する。とりわけ攻撃陣は自分の個性をある程度は犠牲にしながら戦っていただけに、未来に向けてはそれぞれに思うところがあった。
 
「あれだけの強豪国を相手にすると、まだ(守備的な)難しい試合になる。今回のやり方で勝っても先はない。決勝トーナメント進出が目標なら今のままでいいけど、その先を目指すなら間違いなく今のままではいけない」(鎌田大地)
 
「コスタリカ、クロアチアとボールを少し持たしてくれた相手に対して、アイデアがなかった。やっぱり強豪国相手にこのワールドカップという舞台で、90分間しっかりボールを保持して勝ちたいというのは理想。この大会でできた粘り強い守備をベースにしながら、理想を追いかけるのがいいかなと思う」(堂安律)
 
「良く言えばチームのためにやることはやれたが、悪く言えば自分のやりたいことはやれなかった。『個』を押し通すくらいの力が自分にはまだなかった。自分の見積もりの甘さというか、僕の今の状態なら押し通せるだけの『個』があるだろう、認めてもらえるだろうと思っていた自分の勘違いだった」(久保建英)
 
 鎌田、堂安、久保などのアタッカー陣が、やはり今大会の受動的なスタイルではなく、日本人の特性を能動的なスタイルを理想にしているのは間違いない。だからこそ彼はいずれも、4年後に向けて「個」の成長を誓ってもいた。
 
 選手たちが理想を掲げるのは素晴らしいことだし、成長にとって大きな推進力になるものだと思う。ただ、サッカーは理想と現実の折り合いが非常に難しいスポーツであり、理想はもちろん現実にも目を向ける必要がある。
 
 日本代表は今大会の4試合で、致命的な弱点を露呈してもいる。基本技術の低さだ。サッカーにとって最も大事な「止めて・蹴る」の技術が、全体的に高いとはお世辞にも言えなかった。ドイツ代表、スペイン代表、クロアチア代表のほとんどの選手が涼しい顔で高速パスを止めてパスを繋いでいく一方で、日本代表の選手はトラップの段階で困難に陥り、最終的にはボールを捨てるシーンが多かった。
 
 今大会の日本代表でこの「止めて・蹴る」を完全に安心して見ていられたのは、それこそ鎌田、堂安、久保、さらに三笘薫と冨安健洋くらい。「日本人はボールコントロールが上手い」というイメージは、あくまでもプレッシャーが弱い局面での話であり、現代的なハイスピードかつハイインテンシティーな展開になるとむしろ大きな課題となってのし掛かる。それはカタールW杯で改めて浮き彫りになった現実だ。
 

 さらに堂安が「あとは戦術的な理解度もやっぱり必要。スペインがあれだけボールを保持できるのは、ポジショニングや選手同士の意思疎通によるものだと思う。これは日本人は間違いなくできると思っているし、求めていかないといけない」と語っている通り、戦術的なポジショニングも磨く必要がある。今大会の日本代表がボール支配時にむしろ困難に陥ったのは、配置のバランスが悪かったからでもある。
 
 しかもボール支配を基盤とした主導権を握るスタイルを実現するのは、このトップレベルの技術とポジショニングがアタッカー陣のみならず中盤はもちろん守備陣にも備わっている必要がある。仮に鎌田、堂安、久保らがさらに個を伸ばしたとしても、むしろGK、CB、SB、セントラルMFにビルドアップとポゼッションで優位性を取れるタレントが豊富に育ってこなければ、彼らが掲げるサッカーは実現できない。最終ラインや中盤のクオリティーがなければ、前線にクリーンなボールが届かないからだ。
 
 森保監督が「スペインは選手が少年の頃から技術とポジショニングを教え込み、あのサッカーを実現している」と語る通り、主導権を握るサッカーは一石二鳥に実現できる話ではない。ただ、A代表は全ポジションで技術とポジショニングに恵まれたタレントを年齢に関わらず優先的に招集・起用し、チームの練度を上げていくという方策も不可能ではない。3年半後のW杯で主導権を握るサッカーがしたいなら、むしろその方針しかないようにも見える。
 
 その意味では、日本代表の次期指揮官が誰になるかが2026年W杯に向けた最大のポイントになる。森保監督続投も囁かれる中、はたして日本サッカー協会はどんな決断を下すのか。注目したい。
 
取材・文●白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)
 
 【W杯PHOTO】現地カタールで日本代表を応援する麗しき「美女サポーター」たちを一挙紹介!