「2強2弱という構図は変わらないと思いますし、次に、4年後に、同じグループに入ったからといってどうなるか分からない。でも今大会、勝てた自信がある。こういう積み重ねがあってこそ強豪国になっていく。最初から強い国はいない。こういう歴史、経験を積み重ねて世界から見て強豪国になっていくと思います。

 そういう意味では、強くなったとは思わないです。でも、自分たちで強いと信じることは大事だと思います。周りの人がなんて言おうと自分たちは自分たちを信じることが大事だと感じました」

 グループリーグでコスタリカに敗れたとはいえ、“2強”と称されたドイツとスペインを下し、その後に田中碧が口にした言葉が印象深い。

 田中はこうも続けていた「戦い方を選べない悔しさもありました」。

 今大会のチームの強みはなんといっても、自分たちの実力を的確に理解する“思考力”と、組み立てたプランを体現する“実行力”の高さにあった。虚勢を張って自分たちを大きく見せるわけではなく、相手をリスペクトしすぎてネガティブになるわけでもない。多くの選手が海を渡り、世界との距離を肌で感じてきたからこそ、そう振る舞えたのだろう。

 勝つための手段を的確に構築し、チームとして表現する。3-4-2-1を有効活用し、ディフェンス時は5-4-1に可変して守備を固めながら、チャンスと見るや両ウイングバックを一気に押し上げて前傾姿勢を強める。攻撃は手数をかけないスピーディな展開が売りだった。

 そのためポゼッション率は基本的に低い。特にスペイン戦の17.7パーセントはワールドカップで勝利したチームにおいて史上最も低い数字だったという。それでも結果を残したのだから批判される所以はなく、割り切った素晴らしい戦い方を見せたと言えるだろう。

 ただ単に守備を固めると言っても、ワールドカップの舞台である。例えばシンプルにゴール前に5枚を並べたとしても、そう簡単に守り切れるわけではない。相手がどう攻めてきたらどうスライドするのか、誰かが抜かれた場合はどうカバーするのかーー、個々が状況に合わせた的確なポジションを取り、幾度とないディスカッションを重ねて共通認識を高めてきたからこそ、日本はドイツ、スペインとの接戦を制することができたはずだ。

 そういう意味で、今大会の戦い方は守備的戦術と一括りに捉えられがちだが、世界との大きな距離を感じ、恐怖さえ覚え、ベタ引きをしていたひと昔前の姿とは大きく異なった。選手たちの“個人戦術力”が大きく伸びていると捉えられるのだろう。

 ジョーカーたちの働きも的確だった。左ウイングバックで起用された三笘薫は守備でも奮闘しながら、自ら仕掛けられる状況を作り出し、堂安律も危険なスペースをかぎ分けるセンスを示した。

 攻撃陣、特に先発組は多くの守備のタスクを担い、モヤモヤした気持ちも抱えていただろう。特に司令塔として期待された鎌田大地は、ディフェンスにエネルギーを使った分、相手ゴール前での輝きは散発的だった。それでも勝利のために、チームのために走れるのが日本人の強みであり、改めて日本の特長を世界に向けて発信してみせた。

 
 もっとも各選手が大会を通じて口にしていたように、主体的にボールを回す術も身に付ける必要がある。ボールを持てる時間が増えたコスタリカ戦と、クロアチア戦で敗れたのだから、日本にとっては明確な課題である。

「クオリティを示せる選手が育っていますし、クラブではヨーロッパ式のサッカーをやっている選手も多いです。これは今大会の話ではないですが、日本サッカーの今後を考えれば、いつまでも(相手に)アジャストするサッカーをやっているわけではなく、主導権を握るサッカーにもチャレンジしなくてはいけないと思います」(冨安健洋)

「ブロックを作って、自分たちが組織的に守備をすればチャンスがあるというところで、逆にコスタリカ戦(●0-1)は、自分たちがボールを持って崩せないという形は、今の日本サッカーの現状だと思いますし、ここをどう改善していくかは必須です」(三笘薫)

「強豪国との対戦となると、まだ自分たちのレベルでは難しい。本当に世界のトップを目指すなら、今大会のような戦い方ではなく、ポゼッションをできるようにならないといけない」(鎌田大地)

「そこが日本サッカーのこれからの大きな課題です。カウンター攻撃のベースはできてきたが、今後トップを目指す上では引いた相手をどう崩していくか。冷静に考えてドイツとスペインには勝ったが、彼らを相手にボールを握って圧倒的に勝つ力はまだ日本にはありません。そこは認めないといけない。日本はまだ世界のトップレベルではないです。今の日本サッカーの限界。とくに攻撃面ではやるべきことが多い」(長友佑都)

「コスタリカ、クロアチアとボールを少し持たしてくれた相手に対して、アイデアがなかった。やっぱり強豪国相手にこのワールドカップという舞台で、90分間しっかりボールを保持して勝ちたいというのは理想。この大会でできた粘り強い守備をベースにしながら、理想を追いかけるのがいいかなと思う」(堂安律)
 
 誰もが同じ課題を指摘するだけに、2026年のワールドカップに向けた次の4年間では、主体的なサッカーへの取り組みがメインになるのだろう。

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 でもこの流れ、どこかで見たことがある。それはまさに日本サッカーが辿ってきた道である。

 例えば、2010年の南アフリカ・ワールドカップ。本田圭佑を頂点にした4-5-1で躍進した日本は、ラウンド16でパラグアイにPK戦の末に敗れ、2014年に向けてはアルベルト・ザッケローニ監督の下で「自分たちのサッカー」として主体的なスタイルを磨いてきた。しかし、本大会で惨敗を喫したのはご存知の通りである。

 サッカーとは守備的、攻撃的と割り切れるものではないが、その間を行ったり来たりを繰り返しながら、個々の力を少しずつ伸ばし、国としてのサッカーの質を向上させていくものなのだろう。だからこそ、悲願のベスト8にはまたも届かなかったとはいえ、今回の経験も日本サッカーにとっては財産であり、冒頭の田中の言葉どおり、「経験を積み重ねて世界から見て強豪国になっていく」はずだ。
 
 大事なのは今後の4年の方向性をしっかり定めること。曖昧な表現ではなく、具体的に何を求め、どう強化するのか、指針作りが何より重要である。

 そして“主体的なサッカー”に捉われすぎないことも大切なのだろう。

「難しいのは分かっていて、アジアではどうしても僕らが今大会やったようなサッカーを相手にされるので、一貫した戦い方をするのは難しい。ただ選べる状況に持っていくのは必要だなと思います。

 コスタリカ戦ではなかなかチャンスを作れなかった。ポジショニングもそうだし、戦い方もそうだし、その場の即興でなくて、チームとしてちゃんとプランを持って、選択肢があるなかで、何をチョイスするか、そういう形にも持っていくべきなのかもしれません。

 これしかできないとか、僕らはこれをやってきたので貫くというのも格好良いです。ただ、その時々でベストな戦い方を持っておくべきだとも思います。言葉にするのは難しいですが……。(アドリブ力で)強いチームもありますが、日本はそこにチャレンジして良いのかなと」

 守田英正の言葉が今後の指針のヒントになるようにも映る。

 個人的にはボールを握り、常に能動的に相手を崩す技術力に長けた、アイデア豊富なサッカーを見たい。それが日本人の気質に合っているように思う。

 そのためには真の意味での“止める・蹴る”を磨き、ゲームをコントロールできる術をより身に付けるべきだろう。

 ただ、“主体的なサッカー”にこだわりすぎてワールドカップで結果を残せなかった過去の例も糧にしたい。なにがなんでも“主体的に”こだわるのではなく、時と状況によって臨機応変に振る舞うことの重要性は今大会で学んだはずだ。

 非常に難しいが、試合によって求められることをしっかり判断できる選手たちの思考力、そしてそれを理解する私たちの目も今後の4年間では試されているのだろう。

 勝ったから良い、負けたから悪いではなく、今度こそワールドカップのベスト8に辿り着くために、一戦一戦に目的を持って取り組む必要があるはずだ。そこれでこそ、守れる自信がついた今大会の経験を真に生かせるということなのだと感じる。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト特派)