【FIFA ワールドカップ カタール 2022・グループF】クロアチア vs クロアチア(日本時間12月1日/アルマド・ビン・アリ・スタジアム)

2強2弱と見られていたグループFが荒れている。それはあの瞬間からだ。モロッコvsベルギーの73分。コーナー付近のFKをGKクルトワがノータッチでゴールを許したのである。おそらくコンマ何秒、ボールが死界に入って消えたのだろう。あの角度からのあのスピードのボールを世界最高GKクルトワが見逃すなど考えられない。

【映像】ベルギー代表、絶体絶命! 前回準優勝・クロアチアが立ちはだかる

残り17分。FIFAランク2位のプライドと実績に懸けてベルギーは怒涛の攻めを繰り出すはずだった。何と言っても4年前、ロスコフで日本相手に0-2のビハインドを残り25分で追いつき、逆転したベルギーなのだから、モロッコ相手にそれを再現するのはそれほど難しくないはずだった。追いつくには2点ではない、たった1点でよかったのだ。

だが、ベルギーがネットを揺らすことはなかった。そこには疲れ果てたデ・ブライネの姿だけがあった。カナダ戦で孤軍奮闘した活力は消え失せ、彼のボールは横に這うだけで、ゴールマウスに向かうことはなかった。まるでカナダ戦から3つも4つも一気に歳を取ったような鈍い動きだった。

考えられないことが起きるのがサッカーで、その本当に小さな蟻の一穴がどんどん大きくなって、今やベルギー王国を崩壊寸前に追い込んでいる。クロアチアに勝たなければベルギーはW杯から消えることになるかもしれない。

デ・ブライネという心臓が止まることは、すなわちベルギーという身体の停止を意味する。栄華を極めた王国ベルギーの「終わりの始まり」になるはずだ。その時計の針を進めるのも、戻すのも、デ・ブライネ次第だろう。

対するクロアチアは初戦のモロッコのスコアレスドローからカナダ戦2分の先制点までの嫌な雰囲気を31歳のクラマリッチが払い除け、29歳のリバヤの逆転ゴールをスイッチに、28歳のコバチッチや、37歳のモドリッチまでもが躍動した。まるでピッチを自由に駆け回る野心に満ちた24~25歳の選手のように。

相変わらずのテクニックと強かさが、カナダ戦の後半から一気に戻ってきた。彼らは十分に強い。クロアチアだってW杯を目指す権利はもっているのだ。

ベルギーの頭上には黒い雲が厚く垂れ込めている。今にも大雨が降り出しこれまでの栄光を全て流し去ってしまうかのように。対するクロアチアは曇り空から、エネルギー溢れる太陽の光が差し込み、今や青い空が彼らを迎えている。

この二つの国の空は、試合のあとにどんな表情になっているのだろう?答えは試合後に出る。

・注目選手

【ベルギー】ケビン・デ・ブライネ
ベルギーの心臓であり頭脳。デ・ブライネが停滞することはベルギーの死を意味する。中盤からの配給とドリブルでの打開、つまり「戦術・デ・ブライネ」が起動するかどうか?全てはここに懸かっている。

【ベルギー】エデン・アザール
このまま終わってしまう選手ではない。チェルシーの全盛を求めることは出来ないかもしれないが、ボールの持ち方、ステップ、ターンなどはまだまだ一級品のはずである。アザールがデ・ブライネとの融合が決まればベルギーは一気に蘇るだろう。

【クロアチア】ルカ・モドリッチ
前回大会のMVP選手。その輝きは4年経っても曇っていない。独特のステップとターンでボールキープする姿はもはや芸術的な美しささえ感じる。おそらくこの大会がモドリッチにとって最後のW杯になるだろう。1分でも多くモドリッチのプレーを堪能しておきたい。

文:橘高唯史

(ABEMA/FIFAワールドカップ カタール 2022)