カタールワールドカップのグループステージ最終戦が現地1日に行われ、サッカー日本代表はスペイン代表に2-1で逆転勝利を収めた。

 他会場で開催された同組の試合では、ドイツ代表がコスタリカ代表に4-2で勝利。その結果により、日本代表はグループ首位での決勝トーナメント進出を果たした。

 森保一監督は“秘策”を懐で温めていた。いつその手札を切るのか、最も大きな効果を発揮するタイミングを慎重にうかがっていた。そして、決断する。スペイン代表が最後の交代枠を使う時を待っていたかのように。

 68分、ルイス・エンリケ監督はMFガビとDFアレハンドロ・バルデを下げ、FWアンス・ファティとDFジョルディ・アルバの投入に踏み切った。1点ビハインドの状態を覆すべく、左サイドを入れ替え、より攻撃的に前へ出ようという意図のこもった交代カードだった。

 スペイン代表が動いてくるのを読んでいたかのように、森保監督はDF冨安健洋に交代出場の準備をさせた。「我々がリードした際、トミの力を貸してもらって試合を締めようと考えていた」という指揮官は、冨安をジョルディ・アルバやアンス・ファティと対面する右ウィングバックのポジションに入れた。

 ただ、「起用については非常に悩んだ」という。理由は3-4-2-1の布陣でセンターバックを担っていた3人が全員イエローカードをもらっていたからだ。39分のDF板倉滉を皮切りに、44分にDF谷口彰悟、45分にDF吉田麻也と立て続けに警告を受けていた。指揮官としては万が一の事態を想定して、交代の選択肢を残しておく必要があった。

「どこまで我慢すべきか。もしかして退場者が出てしまうかもしれない中での決断は難しかったです。交代を決断したのは、スペイン代表が左サイド(日本代表の右サイド)の攻撃を強めようというカードを切ろうとしていたところ。我々は守備でしっかり固めて、相手の攻撃を受けて、ボールを奪って攻撃に転じていきたいという狙いで(冨安を)起用しました」(森保監督)

 まさに森保監督の狙い通り、冨安は完璧なプレーで右サイドに蓋をした。右ウィングバックに入った背番号16は、対面したアンス・ファティに何もさせず、ジョルディ・アルバの攻撃参加もけん制。「締め」の役割を見事に果たした。

「右ウイングバックで(ディフェンスラインは)5枚ということで、右サイドバックよりも平たく守れる。あとは(板倉)滉くんが隣りにいて、ある程度任せられる選手なので、後ろも信頼できているからこそ、サイドに入った時により(相手選手の)近くに行けたのかなと思います」(冨安)

 アンス・ファティに前向きで仕掛けさせず、ジョルディ・アルバとの1対1も難なく処理して見せる。冨安はアーセナル仕込みのディフェンスでチームの逆転勝利に貢献し「プレミアリーグでやっているので、日常が出せた」と言ってのけた。

 スペイン代表戦の前日、冨安は「仮の話」として右サイドでプレーした場合のイメージについて詳細に話していた。「(プレスに)行くところと行かないところをはっきりする」「奪ったボールをいかにマイボールにできるか」「右ウィングの選手を後ろからしっかりサポートして、前の選手が生きるようにプレーする」というのが、その要点だった。

 ピッチ上で見られたのは、事前の発言通りのプレーの数々だった。試合直前まで別メニューでの調整を強いられていたため状態を心配されていたたが、冨安は「20分強くらい出られたので、いいコンディション調整になった」とあっさり言い切る。

「自分たちを過小評価せずに戦うステップに進んでもいいのかなと。コスタリカ代表戦は勝ち点『1』なのか『3』なのか微妙なところがあって、日本の力を出し切れなかった。(次からは)ノックアウトステージになりますし、しっかりと勝ちにいく。

こちらからアクションを起こすことも、日本が次のステップに進むことにおいて必要なことかなとは思いますけど、それをこのタイミングでやるのか、それともまた違うタイミングでやるのかは、チームとして共有しないといけない」(冨安)

 ドイツ代表とスペイン代表に勝ったことは決して偶然ではない。冨安は「日本の選手全員が持ってるクオリティを示せたと思います」と胸を張る。2試合とも先発した選手たちが堅実に試合を作り、交代選手のパワーで逆転勝利に持っていくという流れで日本代表の“勝ちパターン”を見出した。

 もしスペイン代表が攻勢に出てきたタイミングでジョルディ・アルバとアンス・ファティの勢いを止められていなかったら、同点に追いつかれたり、再逆転されたりした可能性は十分にあった。森保監督の英断と、交代選手のクオリティ、そしてここまでの戦いで築いてきた自信が日本代表を強くしたのである。

 冨安は「実際、ドイツ代表戦やスペイン代表戦の後半は、ある程度やり合う形で戦って、実際に逆転できている。だからといって『力がある』と簡単に言えるわけではないですけど、次のステップに合わせて進まないといけない国だと思っています。そこはこの大会でも示せていけたらいいなと思います」とも述べた。

 苦しい流れでも大崩れすることなく、自分たちの力で逆転勝利を引き寄せた日本代表。その強さや積み重ねてきた自信を体現していたのが、冨安という選手の存在と森保監督の選手起用だった。

(取材・文:舩木渉)

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