[カタールW杯グループステージ第3戦]日本代表 2-1 スペイン代表/現地時間12月1日/ハリファ国際スタジアム
 
 日本の守備的な入り方は容易に想像がついた。スペインはカタールW杯で最もポゼッション率が高いチームであり、ファイナルサードに入ってからの加速も鋭い。不用意なプレスをすれば軽くかわされて、瞬く間にピンチを迎えてします。
 
 だから守備時はミドル及びローの位置に5―4―1のコンパクトなブロックを敷いて、CF前田大然が敵CBをほぼ捨ててアンカーのセルヒオ・ブスケッツへのパスコースを消す戦い方は、戦力的な差を考えれば当然の選択だ。
 
 12分にアルバロ・モラタに先制点を奪われたものの、その後は配置を微調整しながらミドル中央ゾーンを分厚くプロテクトできる5バックの特性を活かしてなんとか凌ぐ。前半の守備は及第点だっただろう。
 
 ただ、攻撃は奪ったボールをどう展開するかの意識付けがやや曖昧。前田が相手のハイラインの裏を突くでもなく、むしろ不得意なポストプレーを強いられて簡単にロストするシーンもあった。久保建英が右サイドから左サイドに動きながらボールを捌いて展開し、最後は鎌田大地がフィニッシュした36分のシーンを除けば、ゴールの匂いがまったくしなかったのだ。
 
 前半を終えた時点のポゼッション率はスペインの79%で、日本はよく耐えたものの実質的にほぼワンサイドゲーム。しかも板倉滉、吉田麻也、谷口彰悟の3バック全員がイエローカードをもらった。このままの戦術的な振る舞いでは、後半も同様の展開になって逃げ切られる可能性が明らかに高かった。スペインは最終ラインからとことんパスを繋いでくるハイラインのチームであり、逆に言えばそのビルドアップを敵陣深い位置の初期段階で引っ掛けらればビッグチャンスに繋がる。どこかのタイミングでリスク承知のパイプレスが必要に思えた。
 
 迎えた後半、久保を堂安律、長友佑都を三笘薫に代えた日本だが、個人的にはそれよりも「このまま低い位置のプレス&ブロック守備のままなのか?」という点が気になっていた。そして47分、スペインがボールを自陣に下げた瞬間、前田が相手のCBとGKに猛烈なプレスを仕掛け、それをスイッチに後方の選手もどんどんラインを上げ、マンツーマンに近いハイプレスを仕掛けていった。
 
「おっ、後半はいくか。リスクかけて勝負にきたな」
 
 そう思った10数秒後、そのハイプレスの流れからボールを奪い取り、堂安が左足で強烈なミドルシュートを突き刺す。さらにそのまま前から奪いに行くハイプレス戦術は続き、51分には田中碧が逆転ゴールまで奪ってしまう。正直、驚きの展開だった。
 
 選手たちは試合後に揃って、戦術プランの変更はほぼ作戦通りだと語った。「前半は守備的に振る舞って0―0でオッケー、0ー1でも悪くない。後半に勝負をかける」という意識づけがチーム内で徹底されていたという。
 
「試合前から監督は、展開次第でマンツーママン気味にして剥がされても仕方ないくらいリスクを取ると言っていましたし、その練習もしていた。だから後半は僕と大地くんなども含めて、前から(プレスに)行こうと決めていた。多少剥がされても、スプリントで戻れば問題ないとハーフタイムに話し合いました」(堂安)
 
「前半は0―0を狙い、ドイツやスペインのような強国が相手であれば0―1も悪くないというやり方が上手くいっています」(鎌田)
 
「点を取りにいかなければいけなかったし、そのための薫投入だった。得点シーンでは(伊東)純也くんも、少し怖いけど、マークの相手ウイングを捨てた。そういう勇気や切り替えが大事になる」(守田英正)
 
「ビハインドの状況になって、後半よりアグレッシブに行くというところは、試合前のミーティングでも話をしていました。それを体現できたかなと思います」(冨安健洋)
 
 ちなみに、日本のアグレッシブなハイプレス戦術は2点目を奪うまでの約6分間で終了。あのリスキーでインテンシティーの高いスタイルを90分間継続するのはどんなチームにとっても容易ではなく、4日前に同じスペインと戦ったドイツもここぞの場面で何度か発動し、なんとか1点をもぎ取っている。しかし、森保ジャパンはたった6分間で2点とミッションを完遂させ、試合をひっくり返してしまったのだ。
 
 日本はその後、再び前半と同様のミドルおよびロー位置のプレス&ブロック守備に切り替え、68分に冨安、87分に遠藤航とディフェンシブなカードも切りながらスペインの猛攻を凌ぎ、見事に逃げ切っている。
 
 作戦通りといえば、そうだろう。ただ、ここまで戦術的振る舞いの変更が即座にハマり、試合展開が短時間でひっくり返るケースも極めて珍しい。あくまでも相手がいるスポーツであり、プラン通りにいくとは限らない。実際に鎌田は「結果を出せているのは、毎試合後半にスイッチを入れ直して、チームの全員が自分のやらなければいけないことを実行できていることが大きいです」、冨安も「プランは立てていたけど、それを実際にピッチ上で表現するのは簡単ではない。律が1点取ったのが本当に大きかった」と語っている。
 
 その意味では、「戦術プランと実行力」がスペイン撃破の絶対的なバックボーンとなったと言える。12月5日に開催されるラウンド・オブ16の相手はクロアチア代表。日本代表はここでも戦術プランと実行力を融合させ、史上初となるベスト8進出を果たせるか。
 
取材・文●白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)


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