カタールW杯でグループEを1位通過し、ラウンド・オブ16進出を決めた日本代表。ドイツ代表とスペイン代表を撃破したのはまさに快挙だが、その裏ではアタッカー陣の“犠牲”が決して無視できない。
両試合の2ゴールはいずれも後半で、スコアラーはドイツ戦が堂安律と浅野拓磨、スペイン戦が堂安と田中碧。ノーゴールだったコスタリカ戦を含めて、先発したアタッカー陣に得点者はいないのだ。
「前半は耐えて0-0でオッケー、0-1でも悪くはない。後半に勝負をかける」
複数の選手や森保一監督は今大会のプランをそう明かす。実際に3試合の前半における日本代表は極めて守備的で、いずれもブロック守備を基盤としていた。前からプレスでハメにいくシーンは少なく、アタッカー陣も素早く撤退してディフェンスに加わる。そして後半はフレッシュなアタッカーを投入し、ハイプレスも交えながら短時間だけ攻撃的に戦うのだ。
だから過去3試合でスタメンだったCFの前田大然と上田綺世、2列目の鎌田大地、伊東純也、久保建英、相馬勇紀らにスコアラーがいないのはある意味で必然。ドイツ戦とスペイン戦で歓喜をもたらした堂安も、先発したコスタリカ戦ではノーゴールに終わっている。前半のアタッカー陣は守備的なタスクが多く、ボールを持っても陣形自体がリスク管理を徹底しているのでサポートが少なく、チャンス自体が極めて少ないのだ。
攻撃陣で唯一の全試合スタメン出場の鎌田は、スペイン戦後に結果が出ていることを喜びながらも、複雑な思いを吐露している。
「前めの選手にとっては我慢の時間が多く難しい試合だが、これがチームのやり方だし、毎試合で後半にスイッチの入れ直しができている。今日も僕やタケ(久保)がたくさん走って守備に追われて犠牲になるようなシーンも多かったと思いますけど、自分の中で割り切って、仕方がない部分もたくさんある。今はチーム全員が自分のタスクをしっかり実行して、ジョーカーの選手が結果を出して、それが結果に繋がっている」
鎌田が名前を挙げた久保は、スペイン戦の前半に同じく守備に奔走しながら、ボールを持てば攻撃でも可能性を感じさせた。それでもハーフタイムに交代。試合後はやはり結果を喜びながら、悔しさを滲ませた。
「正直に言うと今日、前半は僕が一番良かったですし、交代すると思っていなかった。コンディションが良く、身体も切れていたので、ボールを取られる気がしなかった。そういった意味では悔しい。でも、交代で入った堂安選手が決めてくれましたし、1戦目と同じように結果を出してくれた。自分としてはこのまま終わったらちょっと消化不良だなっていうのがあったので、本当に味方を信じていました」
どこかでモヤモヤを抱えるのは、鎌田と久保だけではないだろう。前田に与えられている最大の仕事はプレスであり、本来ウイングの伊東や三笘はウイングバックに回って大きな守備のタスクも担っている。アジア最終予選の段階では完全な主力ながら、今大会はバックアッパーに回る南野拓実ももちろん悔しい気持ちを抱えているだろう。
それでも彼らは自らのエゴを封印し、何よりもチームを優先。出番が少ないから、得意のポジションでプレーできないから、自分のゴールやアシストがないからと、不貞腐れる選手は1人もいない。スポットライトが当たるのはここまで2ゴールの堂安だが、鎌田や久保を含めた他のアタッカー陣の犠牲や献身を抜きにして日本代表の快進撃はありえなかった。
犠牲や献身は口で言うほど簡単なものではない。代表チームはその国のトップタレントが集まる集団であり、それぞれが良い意味でのエゴや自信を持っている。このプライドのぶつかり合いが原因で崩れる代表チームも少なくない。ビッグクラブ移籍も噂されるほど高い評価を得ている鎌田、スペイン育ちで現在もラ・リーガで戦う久保は、中でも自尊心が強いだろう。それでも鎌田はこう語る。
「今は自分のためというよりも、日本のために日本代表の戦い方をやらないといけない」
この気持ちがアタッカー陣のみならずチーム全員の総意なことは、誰1人として身勝手なプレーをせず、約束事や戦略を遂行するグループリーグ3試合を見れば明らかだ。現地時間12月5日のクロアチア戦も、ベース部分は変わらないだろう。このコレクティブさこそが森保ジャパンで最大の武器なのだから。
取材・文●白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)
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