●苦戦を余儀なくされたサッカー日本代表

 サッカー日本代表は現地時間5日、FIFAワールドカップカタール2022ラウンド16でクロアチア代表と対戦した。試合は1-1のままPK戦に突入し、日本代表の敗退が決まっている。3度目のW杯出場で、キャプテンとして日本代表を牽引した吉田麻也は、日本代表の敗退に何を思うのか。(取材・文:元川悦子【カタール】)
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 日本代表の4度目のベスト8のチャレンジはまたしても叶わなかった…。

 12月5日のカタールワールドカップ(W杯)ラウンド16・クロアチア代表戦。日本代表は長い間の課題だったリスタートから前田大然が先制点をゲット。今大会初の1点リードで折り返し、大目標達成に大きく近づいたが、後半10分にデヤン・ロブレンのクロスをイバン・ペリシッチに押し込まれ、苦戦を余儀なくされたのだ。

 森保一監督はベンチに置いていた浅野拓磨、三笘薫のダブルジョーカーを後半19分に同時投入。さらには南野拓実という攻撃の駒も送り出したが、決め手を欠く。ドイツ代表・スペイン代表戦でいい働きをした三笘には2枚がかりでマークに遭ってスペースを消され、浅野も背後への飛び出しや背負って起点になるプレーを封じられてしまった。

 延長戦突入後、唯一の決定機だった延長前半ラストの三笘の強引なドリブル突破も、相手GKドミニク・リバコビッチに阻止される。

「シュートも簡単にセーブされるところだったんで、もっと精度を上げないとなって思います」と背番号9も力不足を認めたが、ここぞという場面で決めきれる人材がこの時間帯にいなかったことが、PK戦による敗戦につながったと言えるのかもしれない。

●吉田麻也が振り絞った「明るい材料」

 悔やまれるのは、久保建英の体調不良による欠場。彼がドイツ代表・スペイン代表戦にように頭から出られれば、堂安律をジョーカーとして置いておくことができ、後半から延長にかけてもう一段階ギアを上げられただろう。南野の不調も誤算だった。彼にゴールの匂いが感じられる状態だったら、クロアチア代表ももう少し苦しみ、堅守に綻びが生じた可能性もある。

 勝ち切れなかった要因を挙げればキリがない。ただ、日本代表が2002年・2010年・2018年に続くベスト16敗退を強いられ、新しい景色を見られなかったという事実だけは変わらない。本当に勝負の世界は空しいものなのである。

 キャプテン・吉田麻也は4年5ヶ月前にベルギーに衝撃的逆転負けを喫して以来、いかにして8強の壁を超えるかを真剣に模索してきた。が、3大会続けて悔し涙を流す羽目になったのだ。

「悔しいです。明日もみんなで練習したかったし、少しでも長くこのチームでやりたかったんですけど、しょうがないですね」と34歳のベテランは涙目でこう言うしかなかった。

「ハーフタイムの時点で1-0では足りないと言っていましたし、クロアチアは伝統的に粘り強く戦ってくる。この1年半でほとんど負けていないので、最低でも引き分けに持ってくるチーム。2点目を取れなかったのは痛かったけど、それでも1点で抑えて120分間よく守りきったと思います。

 スペイン代表とドイツ代表との死闘とは違って、自分たちがゲームを支配する時間も長く持てて、ただドン引きしてたわけじゃなかった。こういう形を強豪相手にも出せたのは、明るい材料なんじゃないかなと思います」

 吉田は前向きにコメントしていたが、それでも結果が出ないのが、W杯の難しさだ。

●「こんなに近くまで来ても越えられない」ベスト8

 背番号22はフィールドプレーヤー唯一の全4試合フル出場を果たし、「僕は全て出し切った」と言うほどの奮闘ぶりだったが、最後の最後でPKを失敗。代表キャリアの集大成を飾ることはできなかった。それに関してもやはり不完全燃焼感がどこかに残っているに違いない。

 吉田がけん引した森保ジャパンは、長友佑都が「今回の代表は史上最強」と何度も繰り返した通り、世界から称賛されるいいチームだった。川島永嗣、長友・吉田・酒井宏樹らW杯複数回経験者たちがリードし、リオ・東京五輪世代のメンバーが成長。ドイツ代表やスペイン代表に公式戦で勝利するという離れ業もやってのけた。

 それでも、8強に手が届かないのが現実だ。すでにそのステージに勝ち進んでいるフランス代表やイングランド代表、ブラジル代表、アルゼンチン代表といった強国の間に割って入ろうと思うなら、成長曲線をさらに引き上げるしかない。ここからの挑戦はさらにタフで厳しいものになると彼は考えているという。

「ベスト8にこんなに近くまで来ても越えられない? ……、日本サッカー全体で次の4年間でどう越えていくかを考える戦いが始まるんじゃないですかね。

 監督もリスクを冒してターンオーバーを使って、プラン通り予選を突破して、ここに余力を残して挑んで、明らかに相手も疲弊していたので、よくプラン通り来ていたはずなんですけど…。ただやっぱり相手の守備が固かったというのはあるし…。何が足りなかったのか分かったら修正しますよ」

●吉田麻也は「明らかに僕を成長させてくれた1人」

 こう苦笑した吉田自身にもハードルを超えるための答えが見つからないのが現状だ。ただ、それを誰かがやっていくしかない。吉田自身は今後ついて問われ、「ゆっくり考えます」とだけ言い残し、明言を避けた。

 代表引退を示唆したという一部報道も出たが、ここで完全に区切りをつけるのか、来年のアジアカップまでキャリアを続行するのか、呼ばれなくなってそのまま終わるのかはまだ分からない。ただ、近い将来、板倉滉や冨安健洋ら20代のDF陣が吉田の取り組みを引き継ぎ、前進する態勢になることは確かだろう。後継者たちにはその自覚を持ってもらわなければ困るのだ。

「(麻也さんは)明らかに僕を成長させてくれた1人の選手。選手としてだけじゃなく、ピッチ外でも、人としてもそうです。本当に感謝していますし、教わったことを実際に表現できなかったという意味では本当に物足りないです」

 失点シーンに絡み、パフォーマンスが不安定だった冨安も反省しきりだった。彼らは今一度、吉田の一挙手一投足や強靭なメンタリティ、卓越したリーダーシップを脳裏に刻みつけ、前を向くべき。それをやってこそ、吉田が努力してきた4年5ヶ月が報われると言える。

 34歳のベテランDFは自分が代表定着する前にチームを離れた中澤佑二、田中マルクス闘莉王という偉大な先輩の亡霊を追いかけていたと明かしたが、ここまでのW杯3大会出場とキャプテンとしての奮闘を見れば、すでに2人を超えたと言っていい。

 吉田が身を持って示したDFとしての矜持、勇敢な姿勢とリーダーシップを我々は今一度、しっかりの脳裏に焼き付けるべき。そのうえで、まだ見ぬ境地を目指し続けていくしかない。

(取材・文:元川悦子【カタール】)

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