●ネイマールは「10番」、パケタは「8番」

FIFAワールドカップカタール2022ラウンド16、ブラジル代表対韓国代表が現地時間5日に行われ、4-1でブラジル代表が勝利した。ネイマールが負傷から戻ってきた攻撃陣は4得点を挙げ、守備の堅さも今大会は際立っている。近年最高ともいえるブラジル代表の強さはどこにあるのだろうか。(文:西部謙司)
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 前半だけで4ゴールのブラジル代表が難なく韓国代表を下した。韓国代表は後半だけでも3つの際どいシュートを放ったのだが、GKアリソンのファインプレーに阻止されている。すべて決まっていれば同点まではいけたわけだが、韓国代表が決めていればブラジル代表はそれ以上に得点してしまいそうな試合ではあった。

 ブラジル代表は左SBのアレックス・サンドロとアレックス・テレスが負傷欠場という緊急事態。右SBのダニーロが左に入り、右はダニーロの欠場中に穴を埋めていたエデル・ミリトンを起用した。ただ、両SB以外はネイマールが復帰してベストメンバーが揃っている。

 7分、13分と2ゴールを連取したブラジル代表は余裕を持ってゲームを進めた。攻守のバランスは古典的といえるほど伝統を踏襲している。ブロックを構えたときの守備は4-4-2、攻撃は4-3-3。ネイマールは背番号どおり「10番」として振る舞う。左のインサイドフォワードだ。守備ブロック形成でカゼミーロとボランチを組むルーカス・パケタは「8番」、攻撃時には主に右側を担当し、前残りしているネイマールより少し遅れて上がっていく。

 両ウイングの突破力も伝統だが、ハフィーニャとヴィニシウス・ジュニオールはブロック形成のときは引いて中盤の4人のラインを担う。ブロック形成ができたら自分の前方の相手にボールが渡ると素早く寄せる。相手のCB以外がボールを持ったときは必ず奪いに行くことが徹底されていた。

●ネイマールはガリンシャからペレに

 攻撃から守備へのトランジションも早く、自分のゾーンへ素早く戻って前進を防ぐとともに、前線のプレスバックが速いので挟み込んで奪ってしまう場面が多い。守備の固さは今大会のブラジル代表の特徴である。

 リシャルリソンの3点目はいかにもブラジル代表らしい得点だった。頭にボールを乗せてのキープからリシャルリソンが1人をかわして前方のマルキーニョスに預けてボックス内へ走る。

 これでDFを引きつけると、マルキーニョスはDFの目線を動かすパスをチアゴ・シルバへ。そして間髪入れず、門になったDFの間へ走ったリシャルリソンへチアゴ・シルバから正確なパスが通ってゴール。相手を圧縮させてから開かせ、間を通すという得意のパスワークで崩し切った。

 ブラジル代表の黄金時代を牽引したのはサッカー史上でも最高の天才2人だった。「10番」のペレとウイングのガリンシャである。

 ネイマールはかつて「ガリンシャの再来」だった。しかし、今大会は「ペレ」になっている。ハフィーニャ、ヴィニシウス、ガブリエウ・マルティネッリ、アントニーの「ガリンシャ」を継ぐアタッカーを自在に使いながら、攻撃のリズムを作り決定機を演出し自らもゴールを狙う。「10番」には新鋭のロドリゴもいるが、やはりネイマールがいてこそのチームだ。

●ブラジル代表らしくない?

 DF陣に負傷者続出とあって、チッチ監督はDF中心に交代カードを切っていく。ミリトン→ダニエル・アウベス、ダニーロ→ブレーメル。これ以上、負傷者を出したくない。攻撃陣ではヴィニシウスとネイマールを下げて休ませ、第3GKウェベルトンを起用する余裕もみせた。

 ただ、韓国代表も劣勢から攻撃に転じて4つの決定機を作っている。47分にソン・フンミンが得意の角度から狙った一撃はGKアリソンが肩に当てて防いだ。得点になってもおかしくない場面をアリソンがことごとく潰していて、世界最高クラス存在感をみせていた。歴代のブラジル代表でGKの印象はそれほど強くないが、1958年初優勝時のジウマールは世界トップクラスの名手だった。今大会はアリソンとエデルソンがいてGKも磐石である。

 76分にペク・スンホの豪快なミドルが決まって韓国代表は1点を返したが、力の差はいかんともしがたくブラジル代表の快勝。

 SBの負傷欠場を除けば、すべてのポジションが揃っていて、それぞれが伝統を踏まえたプレースタイル。一方で、守備の献身性と組織力もあって攻守に穴がない。ウイングが強力なので、SBが無理にオーバーラップする必要もなく、その点はブラジル代表らしくないのだが、カウンターを食らう弱点もない。近年では最高の完成度といえる。

(文:西部謙司)

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